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サムスンと日本企業の違いはどこに

掲載日:2011年7月21日

ICT産業の国際競争力低下が言われ出してからだいぶ時間がたつ。そこに「細野秀雄・東京工業大学教授発明の薄膜トランジスタ特許ライセンスがサムスン電子に」というニュースだ(2011年7月20日「サムスンと薄膜トランジスタ特許ライセンス契約」参照)。どうして日本企業より先に韓国企業が、と思った読者、視聴者も多いのではないだろうか。

率直な発言で知られる細野氏が、記者会見でその疑問に明快に答えている。「日本メーカーにサムスンほどの資金投入力がなかった」。サムスンはフォーチュン誌の2011年売上高ランキングで世界22位(約1,340億ドル)という巨大企業である。確かに40位の日立製作所(約1,090億ドル)、50位パナソニック(約1,010億ドル)、74位ソニー(約840億ドル)、89位東芝(約750億ドル)、158位富士通(約530億ドル)、203位三菱電機(約430億ドル)、241位NEC(約360億ドル)と、日本の電機メーカーは軒並み後塵を拝している。

しかし、どうにもかなわないというほど経営規模、研究開発資金の投入力に差がついてしまったのだろうか。細野氏の発言には、サムスンと日本企業の違いをうかがわせる別の発言もあった。アモルファス酸化物半導体に関する新しい研究成果をサムスンはどんどん公表しており、むしろ論文数ではサムスンが一番多い。サムスンが学界を引っ張ってきている、というのだ。

新しい半導体が次の世代のディスプレーに使えるかどうかを決めるのは、大学レベルの研究では無理。数多くの試作品を作ってみて、実際に絵を表示して見せることが不可欠となる。日本のメーカーはどこもやらずサムスンがそれをした、というわけだ。

NPO法人ブロードバンド・アソシエーションは、昨年5月、1年間にわたり「IT国際競争力研究会」で検討した結果を、通信・電機・コンテンツ業界への提言として発表した(2010年5月24日レビュー「IT産業脱ガラパゴス化への道は?」参照)。その中で日本の電機メーカーは次のように言われている。

「大半の製品を手掛けているため、人、カネ、技術などのリソースが非効率に分散し、設備投資、研究開発投資、販売投資が中途半端となり、競争力をなくし、国内市場だけでシェアを分け合うガラパゴス化している」

科学技術政策研究所が昨年12月に公表した調査報告書「科学研究のベンチマーキング2010-論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況」は、インパクトの高い論文数(Top10%論文数)のシェアが2000年代に入って低下していることに警鐘を鳴らしている。この中で日本企業から出たTop10%論文数が1997-99年には年平均416本と日本全体の10.3%を占めていたのに、2005-07年には年平均224本と半減に近い減少(日本全体の占める割合でも5.8%)となった、と指摘していた。日本メーカーの元気のなさが、この報告からも伺える。

「世界の電機メーカーが人材も含めて世界規模で英知を結集し、新しい製品をつくり出そうとしているのに対して、日本はいまだに国内市場に頼り、たくさんの商品を1つの会社でたくさん作って、ある商品が駄目になってもこっちの商品があるから大丈夫だ、というポートフォリオ(資産管理的)経営をしていた。ところが、今はそれをやっていると突き抜けた商品をつくれない」

「IT国際競争力研究会」の委員長として提言をまとめた夏野剛・慶應義塾大学 特別招聘教授は言っていたのだが…。

【この記事へ読者コメント】
なぜ「日本企業がどこもやらなかった」のかの問い直しが重要
投稿者:K_Tachibana 2011年7月25日掲載

組織という観点から、サムスンと日本企業を比較してみてはいかがでしょう。
あるいは、韓国と日本というそれぞれの国内市場の規模という観点からの比較でも構いません。
韓国市場は日本と比べて小さく、特に新技術の投入後、急速に価格が下落していくICT産業の場合、自ずと国内市場だけで考えていては企業の成長は望めません。

日本企業の生き残りが厳しくなって、早期退職を勧奨された技術者が流出したということもあるのではないでしょうか。

サムスンが戦略的に資金投入できたのはなぜか。
「日本メーカーにサムスンほどの資金投入力がなかった」のはなぜか。
パナソニックが一時期、急速に業績を落としていた経験を経て、V字回復をしたのはなぜか。

トヨタは「なぜを5回繰り返して問い直す」ことをしていると聞きます。
ICT産業トップの意思決定において、「なぜ」がどこまで問い直されているでしょうか。

ニュースリリースを読んで「日本企業がどこもやらない」と嘆く前に、なぜ「日本企業がどこもやらなかった」のか、企業トップがどこまで裁量を持って意思決定できる環境にあるのか、どうすれば状況を変えることができるのか、とことん問い直してみることが本質追求には必要不可欠と考えます。

 
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