レビュー

科学技術システムの海外展開

2010.06.03

 経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で作成した「ものづくり基盤技術の振興施策」(ものづくり白書)と、環境省が作成した「環境・循環型社会・生物多様性白書」が1日、閣議決定された。

 「グローバル市場の変化に対し、ものづくり体制の再構築が必要」。ものづくり白書の指摘にうなずいたのに続き、「環境・循環型社会・生物多様性白書」が初めて「水ビジネス」について1章を設け、海外市場への日本企業の積極参入を促しているのに目が行った。同じ日、国土交通、厚生労働、経済産業の3省も水ビジネスの海外展開を後押しするため「海外水インフラPPP協議会(仮称)」を発足させることを明らかにしたからだ(6月2日ニュース「国交、厚労、経産省も海外水ビジネス後押し」参照)。

 こうした動きの背景に、日本企業の技術的優位が世界市場での優位確保につながっていないという危機意識があるのは、間違いないだろう。ものづくり白書は「先進諸国の市場が成熟しているのに対し、新興国市場が人口増加や所得の上昇に伴って伸張しシェアを拡大、生産拠点から市場としての存在感を増している」と指摘している。さらに「日本の競争力が依然強いとされる中間財でも、韓国、中国などが次第に競争力をつけ、今後、日本の製造業は、アジア諸国との競争で際限ないコスト競争にさらされる可能性がある」と厳しい見通しも示している。

 高品質・高性能の部品や製品を輸出しているだけでは、グローバル市場の変化に対応できず、「付加価値を獲得していくための再構築が求められる」ということだ。

 2つの白書が閣議決定された同じ1日、都内で科学技術振興機構・研究開発戦略センター主催のシンポジウム「豊かな持続性社会を実現するイノベーション戦略に向けて」が開かれた。ここでも昨年暮れに発表された政府の「新成長戦略」に掲げられた「グリーン・イノベーション」と「ライフ・イノベーション」という二本柱を実現するための戦略について多様な意見が交わされた。

 パネルディスカッションで総合科学技術会議議員を務めたこともある桑原洋・日立製作所特別顧問が興味深い発言をしている。「産業界は、GDP(国内総生産)に関心はない。いかに大きな事業をグローバルな連携によって展開するかが重要」というのだ。日本の企業が生産拠点を海外に移すことに対しては、産業の空洞化、失業率の悪化を招くという声が聞かれる。だが、桑原氏の主張は、日本の産業界さらには日本全体にとって大きな問題は生産拠点が国内か海外かというような話ではない、ということだろう。求められているのは、より大きなシステムをつくり出し、世界に送り出していくことだ、と。

 科学技術振興機構・研究開発戦略センターは、「要素技術には強いのに産業化につながらない」日本の課題を解決することを目指し、昨年10月システム科学ユニットを新設した。産学官の有識者を集めた「システム科学技術推進委員会」の初会合(2010年2月24日)で講演した桑原氏は、次のように言っている。

 「産業界の目的は何かというと、入札に勝つこと。一番重要なのは入札に勝つという目的を本当に達成しようという強力な意欲だ。システムというのは結局、最適な妥協で、最適解では入札に勝てない。必要な技術を集めて一つのものに仕上げていく行動、仕組みが大事だ」

 水ビジネスの海外展開にようやく産官学の関心が集まってきた現在、結局、最後に勝つか負けるかの鍵を握るのは日本企業の力量と熱意であって、官と学の役割はそれをいかに支援できるかではないか。そんな気がするがどうだろう。

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