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プレスリップを過大視するのは?

掲載日:2009年8月12日

いつか来る東海地震の震源域と想定されている駿河湾で11日発生した地震について気象庁は同日、午前11時過ぎ「想定される東海地震に結びつくものではないと判断した」という「東海地震観測情報」を発表した。

地震や噴火については学問的に未解明なところが多い。しかし、それを理由に研究者が発生の危険度について判断を忌避していると、かえって社会的な不安や混乱を招く恐れもある。11日午前の時点で地震防災対策強化地域判定会がこうした結論を出したことを、適切と考える人は多いのではないだろうか。地震観測情報は簡潔なのが最善で、あれこれ説明を付け加えると混乱を招くから、結論を簡潔に提示した情報の出し方も妥当と言えるだろう。

そうした前提で、あえて気になったことを挙げると「東海地震をはじめ、海底プレートの潜り込み域で起きる海溝型の大規模地震には、プレスリップという前兆がある(従って、それをキャッチすることで予知が可能)」という正確とは言えない印象を一般に与えなかっただろうか、ということだ。

プレスリップというのは、小原一成 氏・防災科学技術研究所地震観測データセンター長が地震観測データから発見したことで、一挙に内外の関心を集めた現象。四国から紀伊半島、東海地方の西付近にかけて深さ30キロ付近で、低周波の震動、もぞもぞと長時間揺れる動きが起きることが分かった。地震は起きていないのに地下深部でゆっくりと滑るような動きが起きるということだ。巨大地震の直前になると、プレートのもぐり込み個所でまずズルズルとした動きが起こり、それがだんだん加速して地震に至る。こうした予測が、地震発生のシミュレーションから得られ、プレスリップをとらえることで巨大地震の発生を予知できるのでは、という期待が高まっている。

問題は、岡田義光 氏・防災科学技術研究所理事長が2年前の当サイトのインタビュー記事(2007年10月22日「目標は個人向けのリスク情報提供」)の中で指摘しているように「これまでそのような地震直前のプレスリップ現象は世界のどの地震でも確認されていない」ということだ。

各紙の記事を丹念にチェックすると「東海地震でもプレスリップを確実にとらえられるとはいえない」(岡田義光 氏・防災科学技術研究所理事長=日経新聞12日朝刊)、「判定会が想定する東海地震は、この地域で過去に一度も単独で発生した記録がない地震。実際に前兆すべりが起きるのか、だれにもわからない」(茂木清夫 氏・東京大学名誉教授、元地震防災対策強化地域判定会会長=読売新聞12日朝刊)といった専門家のコメントが出ている。

茂木名誉教授がいう「この地域で過去に一度も単独で発生した記録がない」という意味は、東海地震が次に起きるとしても駿河湾中心だけでなく、東南海地震あるいは、東南海プラス南海地震と連動してでないと起きないかもしれない、ということだ。東海地震の想定震源域というのは、大規模地震対策特別措置法ができた1978年当時の地震学の知見を基に設定された。東海地震は東南海地震や南海地震と連動する形でしか起きないのではないか、といった議論がなかった時期である。

この点だけをとらえても東海地震の発生の仕方にはまだ分からない点が少なくない、というのが現実ではないだろうか。

茂木清夫 氏・東京大学名誉教授も同じ読売新聞の記事の中で「東海地震も十勝沖地震のように、ある日突然発生する可能性を忘れてはいけない」と警告している。

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