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高度道路交通システムのモデル都市選定

2009.04.13

 新学期を迎えたばかりの子どもが交通事故で死亡する痛ましいニュースが伝えられている。2007年中の交通事故による死者数は5,744 人と一時よりはだいぶ減り、1953 年以来54 年ぶりに5 千人台となった。しかし、依然として交通事故の発生件数は年間83 万件を超え、約30秒に一人の割合で死傷者を出し続ける“疫病神“となっている。

 政府の長期戦略指針「イノベーション25」は、2025 年に目指す「安全・安心な社会」の実現に向け、高度道路交通システム(ITS)を活用して交通事故の著しい減少を図ることを掲げている。内閣府・総合科学技術会議の社会還元加速プロジェクト「情報通信技術を用いた安全で効率的な道路交通システムの実現(プロジェクトリーダー・奥村直樹 総合科学技術会議有識者議員)」は、ITS 実証実験モデル都市として青森、横浜、豊田の3市を選定した。2012 年度末までにさまざまな実験を行い、その効果を検証するとともに、ITS の利用の先進事例としたい、としている。

 この実証実験の一つの柱は、情報通信技術を活用して高度道路交通システム(ITS)をさらに発展させることで、ITSというのは、人と道路と車両を一体のシステムとして構築することを言う。

 1月30日に東京・お台場で国内すべての自動車、二輪車メーカーと海外メーカー2社の車両30台による「車車間通信を利用する安全運転支援システム」の実証実験が行われた。1991年にスタートした国土交通省の先進安全自動車(ASV)推進計画の一環だ。ASVとしては、既に車に搭載したセンサーを用いて安全運転を支援するシステムの実用化が進んでいる。これは自律検知型安全運転支援システムとよばれるものだ。すでに、前方を走行中の車との距離をセンサーが感知、追突の恐れがあるときに運転手に警告、仮に運転手が気付かなかった場合は自動ブレーキが作動、追突しても軽い被害で済む技術などが実用化している。

 これに対して、この日行われた実験は、自律検知型システムでは対処困難な事故を防止するための安全運転支援システムを対象としている。見通しの悪い場所における追突事故、出会い頭事故、右折事故、左折事故などの防止が狙いである。

 情報通信技術を用いた安全で効率的な道路交通システムの実現に向けた取り組みは、国土交通省以外の省でも進められている。徐々に成果は挙がっていると思われるが、もっと早く死傷者を減らす方策は実現できないものか。特に身近に交通事故の犠牲者を持つ人たちは思わないだろうか。科学技術立国を掲げ、安全・安心社会の実現を最優先の課題にしている国なのに、と。

 昨年6月に提言「交通事故ゼロの社会を目指して」をまとめた日本学術会議・事故死傷者ゼロを目指すための科学的アプローチ検討小委員会委員長、永井正夫 氏・東京農工大学大学院教授は、言っている。「交通事故はやむを得ないとか、事故に遭ったら運が悪いといったこれまでの考えを改め、あらゆる努力をしようという国民的なコンセンサスが最も重要」と。

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