レビュー

国際協力と政策への関心強める米科学界

2009.02.19

 多くの研究成果が報告される米科学振興協会(AAAS)の年次総会は、米国内の科学技術関係者が集まるだけでなく、国際交流の場、科学を政策に活かす道を探る場としての性格を強めているようだ。AAAS国際部からの招きで参加した有本建男 氏・科学技術振興機構社会技術研究開発センター長から送られてきた報告から伺える。

 科学誌「サイエンス」の発行元でもあるAAASの年次総会は、2月12-16日、シカゴで行われた。参加者は1万人。基礎科学から教育、科学技術政策にわたる数多くのセッションが設けられているのは、昔と変わらないようだが、科学の国際協力に関するセッションが人気を集めていたという。有本 氏が新しい科学技術政策のありかたを報告したのは「科学技術政策と変化する世界経済」というセッション。氏以外のパネリストは、欧州連合(EU)研究総局長と全米科学アカデミー国際局長、AAAS国際部長兼科学外交センター長という顔ぶれだった。このうち科学外交センターというのは、昨年秋、AAASに設置されたばかりの組織で、国際部長を兼ねる科学外交センター長は国務省出身者という。この人物によって、セッション「科学技術政策と変化する世界経済」が企画され、その他、国際協力関係のセッションも増えたようだ。

 「東アジアの科学政策と新たなグローバル実態」は、日本の科学技術政策研究所が幹事となり中国と韓国が参加したセッションである。「外交のための科学:北朝鮮との科学協力構築」というセッションは、AAASとシラキューズ大学、ニューヨーク・コリア協会、NGOの4者が協力して北朝鮮との非軍事の科学・教育協力を企画したもので、ピーター・アグレ次期AAAS会長(2003年のノーベル化学賞受賞者)の主導によるものだ。

 このほか、「科学の国際化:未来を見る」「外交の新しいツール:環境変化、保護、対立」や、英王立協会長とハンガリー・アカデミー会長による国際科学協力に関するレクチャーなどが設けられた。

 マカーシー新AAAS会長の就任演説は、地球温暖化問題に多くの時間を割くとともに、オバマ政権への大きな期待を示すものだった。今年はリンカーン大統領の生誕200年に当たる。また、ダーウィンの生誕200年、「種の起源」出版150周年にも当たり、今年の総会テーマ「われわれの惑星とその生命 -起源と将来」が設定された背景となっている。マカーシー会長は、オバマ大統領がリンカーン大統領と同様な国家の非常事態に直面していると指摘した上で、リンカーン大統領が特許の取得や農業技術を振興したほか、科学アカデミーの創立、大学のために用地を無償で払い下げる制度を確立するなど、科学を尊重したことをたたえた。いま科学に対する政治的なリーダーシップが必要であることと、オバマ大統領が科学界から有能な人材を新政権の要職に登用したことを挙げ、科学の情報と知識を大統領が活用してくれることに、大きな期待を表明した。

 大統領への科学的助言、議会への科学的助言、新政権の科学技術政策、科学と政策決定との連結といった科学と政策を結びつけるテーマのセッションも、それぞれ多くの参加者を集め、オバマ新政権への期待の大きさを裏付けていた。

 科学者の社会的貢献については、ゴア元副大統領も招待講演の中で触れ、「科学と社会との間には距離がある。 公共サービス部分(新政権内)に行った科学者たちとの間に距離はできるが、彼らとのコミュニケーションを維持してほしい」と科学者たちに要請したという。

 有本 氏によると、来年2月、サンディエゴで開かれる次のAAAS年次総会のテーマは「Bridging Science and Society(科学と社会を架橋する)」だそうだ。ことしはたまたま「科学は社会のために役立たなければならない」というブダペスト宣言が、世界科学会議で採択されて10年目に当たる。「社会のための科学」を追求し、政策の中に科学の力を活かそうとする。そんな動きが、今後、米国で活発化するのではないか。

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