レビュー

秋田県のポスドク先生は今

2009.01.26

 1年前、秋田県教育委員会が初めて試みた教員特別採用で教師の道を選んだ博士号取得者たちは、その後、どうしているのだろうか。

 採用された6人(うち1人は非常勤講師)の1人、瀬々将吏 氏・秋田県立横手清陵学院高等学校教諭が、NPO法人サイエンス・コミュニケーションのメールマガジン「SciCom News」26日付の巻頭言で、近況を報告している。

 秋田県教育委員会の新しい教員特別採用の試みは、「39歳以下」と「博士」という条件だけで、教職課程修了の有無は問わないというユニークなものだった。瀬々 氏は、57人の応募者から選ばれた1人だ。2003年に大阪市立大学で博士号を取得し、それまでは国立台湾大学でポスドク生活を送っていた。素粒子論、とくに「ひも理論」と呼ばれる分野を専門としている。

 採用時、当サイトのレビュー欄で紹介した(2008年4月1日レビュー「博士号取得者は中等教育を変えられるか」参照)際、ポスドク問題に関心のある人々の期待とともに心配の声も紹介した。「あたまでっかちな博士が送り込まれたとしても現場に迷惑がかかるだけではないか、という懸念ももたげる」(NPO法人サイエンス・コミュニケーション代表理事、榎木英介 氏)というものだ。

 瀬々 氏の巻頭言を読む限り、その心配はなさそうにみえる。「一つの職員室に80名もの大所帯で、国語や社会、音楽など、異分野の先生方とも距離が近くいろんな話ができます。体育祭、運動会、文化祭などのイベントがもりだくさんで、指導教科とは関係のないところでも活躍の場がたくさんあります。専門分野だけではなく、いろいろなことに興味のある方ならきっと楽しめる環境だと思います」と書いているからだ。 氏のブログを読んでも、高校教育の現場に抵抗なくとけ込んでいる様子がうかがわれる。

 主な仕事は「他の高校や中学に出向いての『出張授業』」というが、肝心のこちらの方はどうか。「専門のひも理論・素粒子論・宇宙論の授業のほか、環境問題や通常の理科実験の授業も依頼に応じて行っている」というから、高校生にとっては興味深いだろうがなかなか手強い授業だと想像できる。

 「いまの中等教育の課題は、生徒の『学びへのモチベーション』をいかに喚起するか、ということに尽きると思っています。高校にアカデミックな態度と雰囲気を持ち込んで生徒をその気にさせる存在として、ポスドク出身の方々がこれからもおおいに活躍できることを期待しています」。この結語に力づけられて、高校や中学の先生を目指す理工系の博士号取得者が増えるだろうか。秋田県に続いて同じ教員特別採用を取り入れるところが出てこなければ、どうにもならないが。

関連記事

ページトップへ