レビュー

政策提言それとも陳情

2008.10.27

 NPO法人サイエンス・コミュニケーションの代表理事、榎木英介 氏(医師、医学博士)が、27日配信のメールマガジン「SciCom News」で「科学技術政策提言市場を作る」という論を展開している。

 「科学技術政策に関して、その動向をウォッチし、提言を作ることを大きな目標として掲げている」NPOとして、その役割をいかにしたら果たせるか、いろいろ悩みながら活動を続けていることが伺える内容だ。

 その中に次のような記述がある。「以前、行政の方とお話をしたときに、『政策提言とやらが、陳情とどう違うのか』と言われたことがある」

 榎木 氏の相手がどういう人か分からないが、自分の属する役所外の意見を行政官がどう見ているか、推し量る材料になるかもしれない。

 「SciCom News」は、榎木 氏のEditorialとは別の個所で、当サイトの2008年10月21日付レビュー「日本学術会議への期待」についてコメントしてくれている。「日本学術会議には、科学コミュニティの代表として大変期待しているわけですが、そもそも内閣府の所属という位置づけでは、独立性もないのではないか、とうがった見方をしてしまいます。私たちのような草の根の意見も取り入れて、提言を実行にもっていく力を見せていただけたら嬉しいのですが…」というものだ。

 日本学術会議の「独立性」となると、さまざまな議論がこれまでも交わされたと思われる。政府から完全に独立した機関となって、今のような活動が続けられるうまい方法があるだろうか。日本学術会議の大きな役割の一つを、行政からの求めに応じ、科学、技術に関する調査、分析を行い報告、提言することにあると考えるなら、いずれにしろ公的な資金が注入されない限り、存続自体が難しい。

 独立性が十分に保証され、かつ資金的にも存続可能な組織の在り方となると、少なくとも現在、投入されているのと同等の公的資金が、調査、分析、報告、提言などの活動に対する委託費として行政側から日本学術会議に入ってくる仕組みが必要となるのだろう。そのためには各府省がそれぞれ審議会あるいはそれに類する組織を抱える今の仕組みを根本から変え、日本学術会議が窓口になってほとんど引き受ける形にする。もしこのようなことが可能であれば、日本学術会議も「わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的とする」(日本学術会議法第1章第2条)機関にふさわしい機能を発揮できそうに見える。

 問題は、研究者自体がどう考えているかではないか。府省がそれぞれ審議会のような提言組織を抱える今のシステムで不都合がない。そう考える研究者が多いとなると、このアイデアも途端にしぼんでしまいそうだが。

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