レビュー

理数系教養科目に必要なエデュテインメント

2008.09.30

 大学の理数系教養科目を教えるには「エデュテインメント」という考え方が必要だ、と鎌田浩毅・京都大学大学院教授が「科学」10月号に書いている。

 エデュテインメントというのは、教育(education)と楽しみ(entertainment)を併せた鎌田 氏の造語である。理科4科目のすべてを履修する高校生はほとんど皆無。その中でも地学の履修者は7%という現実の中で、大学の1、2年生に教養科目としての理科を教えるには「エデュテインメント」に徹することが必要だ、と実体験を基に説いている。

 教科書については次のように書かれている。「最後までストーリーを興味深く追いかけられることを、最優先の課題とする。換言すれば、事実関係のきちんとした裏付けを細々と書くのは逆効果なのである。……しばしば専門家が陥りやすい点であるが、教科書はすべてを網羅しなければならない、という考え方を捨てることが肝要である」

 氏が「火山体にかかる応力」をどのように説明しているかの記述が例として挙げられている。

 「応力というのは、ゴムボールを押したときに、もとに戻ろうとする力をいう」から始まり、「ある物体に対して外から加わったとき、その力とつり合う分だけ、内部から対抗するように…」という物理学の定義が続く。この辺までならまねができる先生は少なくないだろうが、その後に続く説明は、細々とした事実関係にこだわる専門家にはなかなか思いつかないかもしれない。

 応力の英語がストレスであることを指摘し、精神的ストレスという日常用語に触れ、「心理学のストレスは、物理学の応力を借りてきた用語である」と続けるのだ。

 専門的な話に終始しないで、しばしば身近な例と対比させる。さらに時折、ズームバックして視野を広げてみせる。こうした工夫は、大学の先生だけでなく、ジャーナリスト、サイエンスコミュニケーターにも必要なことではないだろうか。

ページトップへ