レビュー

宇宙開発における夢とは

2008.04.30

 毎日新聞28日夕刊「グッド・イブニングAmerica」欄に、土井隆雄さんらを乗せたスペースシャトルの打ち上げ、飛行を取材した大治朋子記者による「『夢』を追う体力」という署名記事が載っている。

 大治記者は記事の内容から推察すると北米総局(ワシントン)駐在の記者で、いわゆる科学記者ではないようだ。米国の宇宙開発の現状を大づかみにとらえた記事から、米社会における宇宙開発の比重のようなものが理解できたと感じる読者も多いのではないか、という気がする。

 シャトルが打ち上げられたケネディ宇宙センターで、取材に来ていた米FOXテレビの記者が次のように言ったという。「NASAのニュースは最近関心が薄くてね」。「その言葉通り、テレビも新聞も、扱いは地味だった」という。

 米政府の発表を見る限り、米国が宇宙開発の手を抜きたいと考えているとは判断できない。現に2004年、ブッシュ大統領はシャトルを10年までに引退させ、新型の有人宇宙船で月や火星を目指すという「新宇宙開発計画」を発表していることを、大治記者も紹介している。

 月はともかく有人火星探査にどの程度の実現性があるものか。スペースシャトル計画の最初の試練となったチャレンジャー爆発事故(1986年)の後、米国で交わされた数多い意見のうち、なかなか興味深いものがあった。

 有人火星旅行は実現困難だろう。なぜならアポロ計画が可能だったのは、宇宙飛行士たちが地球を飛び立って月に着陸、再び地球に帰還する一つの飛行が1週間程度で完結するから(最初に人を月に送り込んだアポロ11号は打ち上げから帰還まで8日間)。国民の関心を引きつけておくには適度な日数で、実際、飛行の間、ほとんどの米国民は毎日、テレビでアポロ宇宙船の動向を追い続けた。計画に巨額な国費をつぎ込むことに対しても国民の支持が得られたが、火星への飛行となると片道半年もかかる。米国民の関心を持たせ、計画への支持を集めるには飛行期間からして長すぎる、といった内容だった。

 大治記者の記事に戻る。

 「ところがこの計画(編集者注:ブッシュ大統領の『新宇宙開発計画』)、雲行きが怪しい。新型船の初飛行は予算不足ですでに1年遅れ、15年以降になるという。議会でも技術・資金の両面で課題が指摘されて、さらに延期の可能性も出てきた。シャトルの引退から、新型船が飛ぶまでの『空白の期間』は、どのくらいになるか分からない。その間、飛行士を宇宙に運ぶことができる国は、ロシアだけになるかもしれない」

 記事は、「国家が『夢』を追うには資金と人々の熱気が生み出す『体力』が必要だが、今の米国は、そのエネルギーが落ちている」と続く。その上で、シャトル打ち上げの瞬間を隣で見ていた若田光一宇宙飛行士の瞳が輝いていたことを紹介し、「日本には、まだ『夢』を追う体力があるように思えた」と期待を込めて結んでいる。

 さて、日本の宇宙開発の現状はどうか、最近の一部新聞報道や関係者の話によると、「宇宙基本法」案について与党と野党の協議が進み、連休明けにも成立の可能性があるらしい。研究開発志向から安全保障を初めとする国民に役立つ宇宙政策への方向転換が、宇宙基本法には盛り込まれるといわれる(2008年3月24日インタビュー・鈴木一人 氏・筑波大学准教授「見直し迫られる日本の宇宙開発」)。

 また、現在、最終回が掲載中の特別企画「宇宙開発を小型化したい」の中で、永田晴紀 氏・北海道大学大学院教授が一貫して強調しているのが「社会が求める宇宙開発」だ。

 「宇宙開発はもはや夢の技術開発ではありません。かつては夢だけで社会と繋がれるという特権を持っていた宇宙開発の神通力は失われつつあり、我が国の宇宙開発は国民から乖離しつつあります」(「宇宙開発を小型化したい」)「1トンの牛肉を誰が買うか?」)

 永田教授は、宇宙開発の夢を北海道という地域の中で実現する具体的取り組みを紹介しているが、同時に厳しい現状認識も示している。

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