レビュー

専門分野の統合は難しい?

2008.03.18

 地球環境をはじめ近い将来、社会が直面する“未来の課題”の解決は、これまで大学で行われてきたシーズ先導型の研究では無理。大学が蓄積してきた知識と研究力を総動員するニーズ先導型の研究活動でこの壁を乗り越える—。こんな目的を掲げた東京工業大学統合研究院ソリューション研究機構の機関誌「そりゅーしょん通信」最新(第9)号に、「統合」についてあらためて問う記事が載っている。

 「統合がうまくいったとしても理工系だけの統合に終わるのではないかと危惧する」。元毎日新聞編集局次長・科学環境部長の瀬川至郎 氏・早稲田大学客員教授の寄稿記事だ。

 「取材すべき喫緊の課題は複合的であり、個々のディシプリン(専門分野)を統合した形で取り組まなければならない」。前段で、毎日新聞時代の経験を紹介したうえでの指摘である。統合研究院が目指すのも同様、ディシプリンの「統合」と思われるのに、機関誌を創刊号から読み返してみたら、紙面に登場するのは理工系の研究者や企業の幹部ばかりではないか、というわけだ。

 「そりゅーしょん通信」の巻頭言を書いているのは、冨浦梓 氏・東京工業大学監事(元新日本製鐵常務・技術開発本部副本部長)で、冨浦 氏も、専門教育だけでは課題解決が困難になっていることを指摘している。

 目につくのは、「専門教育と一体化した教養教育が重要」と言っていることだ。

 「試行不能な巨大人工物、試行が許されない生命倫理などにかかわる対象が増加した結果、仮説実証法は破綻に瀕した」のだから「依拠すべきは論理整合性となる。論理整合を図るには、自然科学的論理や人文社会科学的論理の充実に加えて、社会的合意や動向の把握も不可欠となる」という。理工系の人間と、文科系の人間が集まって知恵を出し合えばよいというのではなく、文科系的知識や思考法も備えた理工系の人間や、その逆の人間が必要になっている、というようにも読める。

 瀬川 氏も、実はメディア企業においても、政治、経済、社会、科学など各部が「統合」して目前の課題に取り組むことの難しさがあることを認めている。「各取材セクションはそれぞれ『自分たちがやってきたこと』に固執し、なかなか統合しようとしない」からだ。大学でも同様な現実があるのでは、というのが氏の危惧するところで、興味深いことに、氏も教育の重要性に触れている。

 大学院教育については、相澤益男 氏・総合科学技術会議議員(前東京工業大学学長)も、最近、早急な改革の必要を唱えている(3月17日「サイエンスの未来を考える」「日本の大学院教育改革は待ったなし」参照)。

 では、大学院だけの改革で十分だろうか。大学入学時に理科系、文科系に明確に仕分けられてしまう。そんな入学者選抜の仕組みと、その後のカリキュラムのあり方を変えずに、冨浦 氏が言うような「専門教育と一体化した教養教育」の充実が可能なのだろうか。大学(学部)に手を付けない限り、課題解決能力のある理系人材の育成は難しいだろうし、文科系出身者でないと指導的な立場に就きにくい日本社会の構造も変わらないのでは…。

 そう考える人は、理工系出身者の一部だけだろうか。

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