レビュー

ポストドクター本当に多すぎるのか

2008.02.05

 ポスドク問題に関する議論があちこちで交わされている。1月24日には大学院生に年額最高240万円を支給する研究奨励金制度の発足を東京農工大学が公表した。東京大学、東京工業大学も同様に大学院生支援策を打ち出している。いい学生が集まらないと大学の存立基盤を揺るがしかねない少子化、国際化の時代だ。こうした大学側の動きは、外部からのてこ入れがなくても続くのではないだろうか。

 問題は「大学院は出たけれど」の方だろう。1月21日に「今、求められる研究者像と人材育成」という産業技術総合研究所主催のシンポジウムが開かれた。

 日立製作所会長で経団連副会長や総合科学技術会議議員を務めた経験も持つ庄山悦彦 氏が、講演者の1人として経団連産業技術委員会の提言「イノベーション創出を担う理工系博士の育成と活用を目指して」に触れていた。「入口」「研究教育」「出口」の3段階に分けそれぞれ大学、政府、企業がやるべき人材育成策が掲げられている。

 「出口」のところの提言は次のようだ。

 大学に対しては「博士号取得者に対する就職支援の充実」、政府には「ポスドク等が活躍できる産学協同の場の提供」、企業には「優秀な博士課程取得者を積極的に活用」がそれぞれ求められている。「優秀な人材が博士課程に進学しない」→「博士人材の付加価値が不明確」→「企業が博士人材の採用に消極的」という悪循環に陥っている。経団連産業技術委員会のそんな現状認識に基づく提言である。

 ここで問題になるのは「優秀な人材」とは何かではないか。大学、政府、企業がそれぞれ全く別の「優秀な人材」像を描いていたら、この提言はおそらく効果が期待できない。

 日経新聞4日朝刊「教育面」に、坂東昌子 氏・日本物理学会キャリア支援センター長(愛知大学教授)の「基礎科学復権へ活用を—ポストドクター本当に多すぎるか」という寄稿が載っている。結論は、次のようだ。

 「真のイノベーションを創生するには、基礎力が問われる。基礎科学の復権こそ、科学技術立国を目指す日本の喫緊の課題であり、そのためにポストドクターはもっと有効に活用されてしかるべきだと思う」

 坂東 氏は途中で「物理学に限って論じてみたい」と断っているので「ポストドクターは本当に多すぎるのか」という問題提起が、物理学以外の分野も対象にしたものかどうかは、はっきりしない。ただし、「昨今の高等教育政策の流れは、基礎重視から応用重視へと大きくシフト」し、「戦後の日本の高い科学水準を支えたのは、基礎力のある学生を育てたことだったのに、その伝統は消えてしまった」という批判にたった主張であることは明白だ。坂東 氏にとっては、基礎科学の力を十分身につけた人間こそ、「優秀な人材」ということだろう。

 これが政府、企業の期待する「優秀な人材」像と一致するならポスドク問題の解決も心配することはないように見えるのだが…。

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