レビュー

日本の研究者の流動性高まる

2007.10.15

 研究機関を移動する研究者が日本でもだいぶ増えてきた、という調査報告が、「情報管理」10月号に載っている。

 欧米と比べ、日本研究者は、大学、大学院を出た後、一つの研究機関から動かない傾向が顕著で、それが日本全体の研究レベルの押し上げを阻む原因の一つになっている、と最近強く叫ばれている。調査は、この10年間で進められた任期付き教員や研究員制度の導入が相応の効果を上げていることを示す調査結果として、関心を呼びそうだ。

 筆者は、科学技術政策研究所の治部眞里・上席研究官と、三菱総合研究所の近藤隆・主任研究員で、基になったデータは科学技術振興機構の研究者データベース「ReaD」。総務省統計局の調査によると、日本には大学に約295,000人、公的機関に約37,000人、民間企業で約519.000人の研究者がいるとされている。ReaDでは民間企業の研究者のデータは、ほとんど把握できないが、大学、公的機関に関しては半数以上の研究者のデータが収められている。

 治部氏らが、ReaDのデータ記録時に教授職にあった研究者の移動歴を調べ、さらに研究者としての生涯の在職期間を30年とみて、1人の研究者が生涯のうちに何回、移動するかという期待値(生涯移動回数期待値)を求めた。この結果、国立大学法人で1.513回、公立大学で1.751回、私立大学で1.845回と、いずれも1を上回る数値となった。つまり、日本の研究者も研究機関を移動する回数が一生のうち、平均すると2個所まではいかないにしても、1個所に留まる研究者は少数派になっていることを示している。

 この種の調査は、米国カーネギー財団による調査(1992〜93年実施)と、2005年に行われた科学技術政策研究所と三菱総合研究所による調査がある。カーネギー財団の調査では、日本教授職の生涯移動回数期待値は、0.78回と1を大きく下回っていた。2005年の調査でも、国立大学法人では、0.96と依然、1以下で、公立大学、私立大学もそれぞれ1.18、1.00に留まっていた。

 今回の調査結果は、日本の教授職の生涯移動回数期待値が、1993年の米国の数値1.62並みになったことを示している。

 政府は、1996年にスタートした第1期科学技術基本計画中に、任期付き教員、研究員の導入を盛り込んだ。この結果、任期付き教員が2002年には205大学で5,231人にまで増えた。国立試験研究機関、独立行政法人研究機関でも、任期付き研究員の数が2004年には660人まで増えている。

 任期制の積極的導入に併せて、公募制の導入も進み、2006年末時点の公募件数は9,447件と2002年の2.5倍に増えている。研究者の流動性が向上した背景には、これら任期制と公募制の導入があると、調査報告は指摘している。

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