レビュー

前立腺がん死亡率横ばいの理由は?

2007.09.11

 前立腺がんの早期発見に効果があるとして急速に広がっている血液検査「PSA検査」の効果に疑問を投げかける記事が、9日の読売新聞朝刊トップに載った。

 記事によると厚生労働省の研究班がまとめた初の指針案は、「検診での早期発見による死亡率の減少効果が不明な上、精密検査などによる合併症などのマイナス面が無視できない」という理由を挙げて「現時点で、集団検診として(市町村や職場で)実施することは勧められない」としている。記事は日本泌尿器学会が指針案に反発する見解を公表している事実も伝えているが、今後、医療関係者だけでなく、一般国民にとっても大きな関心事となりそうだ。

 「PSA検査」が急速に普及しているのは、高齢社会の到来によって前立腺がんにかかることを心配する男性が増えているのが大きな理由と考えられる。厚生労働省の統計を見てみると10万人当たりの患者数を示す罹患率が、1980年で9.8だったのが、年々増え、99年には21.7となっている。同じく10万人当たりの数で示す死亡率も1980年で4.4だったのが99年では8.5とこれまた増えている。ただし、増え方は、死亡率に比べ罹患率の方が大きい。

 前立腺がんを含むがんの罹患率や死亡率について疫学者はどのようにみているのか、昨年8月、本田財団主催の懇談会における津金 昌一郎・国立がんセンターがん予防・検診研究センター予防研究部長の講演「がんになりやすい人 なりにくい人」から、引用してみる。

 「ここ20〜30年、我々の生活習慣が変わって来ていることが、がんのパターンを変えて来ました。今時の生活をする事は胃がんにとっては予防的なのですが、乳がん、前立腺がんにとってはリスクだという事になります」

 前立腺がんが増えているのは、生活習慣の変化によるということだ。このほか講演の中で前立腺がんに触れたくだりは、一卵性双生児による研究結果から「前立腺がん等、比較的遺伝性が強いがんでも1割か2割くらいしか一致しません」(遺伝の影響は1割か2割しかないという意味)としているところと、「前立腺がんは肥満とは関係ない」という指摘くらいである。

 ただし、本田財団のホームページには収録されていないことも当日、津金氏は、言っていた。会場からの質問に答えてである。

 「前立腺がんはたしかに増えているのだが、死亡率は変わらない。増えているというのは、検査を受ける人が増えたから病気が見つかるのも増えた、とも考えられる」

 読売新聞の記事で、あらためて厚生労働省の統計を見てみたら、前立腺がんの死亡率は、96年に8.2になって以降、2003年の8.5までほとんど変わっていないことが分かる。

 前立腺がんを早期発見するための血液検査の是非については、専門家の十分かつオープンな議論に待つとして、死亡率が変わらないことと、検診の効果の関係についてもきちんと説明してもらいたいと考える人は多いのではないだろうか。(読売新聞の引用は東京版から)

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