レビュー

「右へ倣え」は困りもの-大学広報誌拾い読み

2007.08.16

 「人間社会への難しい課題への挑戦にはこれからは文系と理系の知的対話が絶対に必要である」

 筑波大学の広報誌「筑波フォーラム75号」に、村上浩一・数理物質科学研究科教授(半導体工学、ナノサイエンス)が書いている。

 「今の科学や技術も一部の先端分野では欧米と対等に競争しているものの、その基礎はやはり借り物がほとんどで、真理の探究という精神面での希求や問題発掘が、果たして自分達から湧き出てきたものかどうか疑問であるような気がしてきた」

 「研究でさえ流行を追いかける人が日本には多い。研究者には、これだけは自分で土俵をつくるという気概で頑張るべき時期があるはずだ。しかし、最近、独自のやり方だが実用化を謳わない研究は科学研究費補助金の申請も通らないことが多いようだ。ブランドと流行が学会でも大きな顔をして通っている。そのような科研費に通った人々が審査員になってきたため、ますます流行でない研究は通らなくなる。これでは世界から尊敬されるようなオリジナリティのある研究と日々の蓄積効果が将来出なくなるのではないかと心配になる」

 イノベーションを生み出しやすい社会にしなければ、と檄を飛ばしている人々と、第一線の多くの研究者との間には、相当な落差があるということだろうか。

 「10年、20年先になってみれば、『これからの大学とは? 何を教育すべきか?』という問いかけと実践とは、教育・研究・資金で国内他大学とゼロサム的競争を今するよりも、もっと大切かもしれない」と村上氏は問題提起し、次のような提言をしている。

 「大学の特長は、企業とは違い、文系と理系の知的集団共同体であることだ。これをうまく融合的に生かして、現在および将来の重要課題を的確に見出し果敢に挑戦し、長期的な視野で人々のためになる人材の育成を行い、教育研究等の活動成果を地元や世界に発信し還元するのが主要大学の使命と考えたい」

  (引用は、「筑波フォーラム75号」の「『右に倣え』は困りもの」から)

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