レビュー

「坊っちゃん」から育む地域文化-大学広報誌拾い読み

2007.08.13

 「地方大学は地域の文化を育む責務を担うべきだ」。愛媛大学広報誌「Line」28号に、佐藤栄作・教育学部教授が書いている。

 「愛媛大学への赴任当初は、方言の研究を楽しみにしていました。愛媛県の方言はバラエティに富んでいて、山一つ越えただけでも言葉やアクセントが大きく変わります。方言の研究者にはとても魅力ある県です」

 佐藤教授が研究の題材に選んだのは、地元、松山を舞台にした夏目漱石の小説「坊っちゃん」。日本語の発音、アクセント、文字、表記、方言などの研究者として漱石直筆の原稿を調べ、あることに気づく。「方言部分に漱石ではない誰かが手を入れている」と。

 「漱石が使っていた平仮名の変体文字が、方言部分の加筆や訂正では使われていません。事実、漱石は高浜虚子に方言部分について修正を願う手紙を書き、それが残っていますし、虚子の書いた文字との照合もできました」

 虚子は松山の生まれで、漱石とは俳句文芸誌「ほとゝぎす」を通じての知り合い。方言部分の修正を頼まれたらしい。

 「坊っちゃん」が出版されてから昨年でちょうど百年。これに合わせて佐藤教授は「『坊っちゃん』100年と松山」という授業題目でプロジェクト学習を行う。その授業から当時の1年生7人が「『坊っちゃん』と松山の新世紀を考える」というプロジェクトを立ち上げ、「松山市学生による政策論文」で優秀賞を受賞する。その論文を基に昨年8月1日には、「坊っちゃん先生、おいでんかなもし!─『坊っちゃん同窓会まつり』で松山市を活性化しよう─」というイベントを学生たちと開催した。

 「地方大学は地域の文化を育む責務を担うべきだと思います。子規や漱石など、愛媛に来たら、愛媛大学に入学したらこれが学べる、という特徴のある研究も必要ではないでしょうか。愛媛は方言の宝庫。私自身,愛媛の方言をもっと詳しく調べたいと思っています」ということだ。

 (引用は、愛媛大学広報誌「Line」28号「『坊っちゃん』から始まった夏目漱石の研究、日本語から見えてくるもの」から)

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