レビュー

日本列島一の高さ借り受けたNPO

2007.07.27

 気象庁が閉鎖しようとした富士山測候所をNPOが借り受ける—。ちょっと前に出たこんな新聞記事に「面白い話だが、どうしてまた」と思った読者もいたのではないだろうか。そうした疑問を解消してくれると思われる記事が、日経サイエンス9月号に載っている(「NPOによる富士山測候所の研究・教育利用がスタート」=中島林彦記者)。

 気象庁にとっては、観測業務は明確に決められているから、別の手段が可能となれば単に不便な場所にある施設にすぎない、ということだったのだろう。しかし、広い目で利用法を探し、日本列島で最も高い場所にあるという特異性に着目すれば別の新たな価値が見いだせる。そう納得する人も多いと思われる。

 このNPO法人「富士山測候所を活用する会」の理事長は「高所医学が専門の浅野勝己(あさの・かつみ)筑波大学名誉教授」。メンバーは「さまざまな分野の研究者や登山家、医師、市民、企業、自治体関係者など」という。「契約は3年、年間8万2000円の借用料を気象庁に支払う。非常に安いような気がするが、施設の保守管理の責任も負うので年間約2000万円に達する維持管理も同会の負担だ」

 金だけ出せばよい、というわけではない。「施設の維持管理と研究観測装置の保守などのため、富士山測候所の元非常勤職員や山岳ガイド経験者などからなる同会『山頂班』のメンバーが6月中旬から9月中旬にかけて常時3人滞在する」

 さて、それでどのような見返りがあるというのか。「初年度の今年は越境汚染と大気観測に関する受託研究などが3件(海洋研究開発機構と国立環境研究所、民間財団)あり、1660万円の予算が得られた。NPOメンバーによる研究教育も実施する。来年度以降はより広く研究テーマを募集する」。先行きの見通しはなかなかよさそうだ。「一般向けの『富士山学校』やエコツアーも積極的に開催する計画」という。

 施設の共同利用というのは、公費を使う研究のあり方として今後ますます、推進されると思われるが、NPOが活動の主役として活躍、というのはさらにその先を先取りした形態といえるかもしれない。(引用は日経サイエンス9月号から)

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