レビュー

本物を見分ける最初の伯楽は

2007.07.06

 「出る杭を伸ばす」(長期戦略指針「イノベーション25」)、「古来文明の進歩、其の初めは皆、いわゆる異端妄説に起らざるものなし」(福沢諭吉「文明論之概略」)といった言葉を、このところあちこちで聞く。「文明論之概略」が書かれたのは1875年。「長期戦略指針『イノベーション25』」が閣議決定されたのは、わずか1月ちょっと前だから、この間、130年余になる。相変わらず同じようなことが言われているということだろうか。

 酸化チタンによる光触媒反応「本多・藤嶋効果」を40年前に発見した藤嶋昭・神奈川科学技術アカデミー理事長が、東京工業大学統合研究院ソリューション研究機構の季刊誌「そりゅーしょん通信」のインタビュー記事の中で昔話を披露している。

 「学会からは袋叩きに遭いましたね。当時の理論から大幅に外れるような反応はありえないというわけです。その後、科学雑誌『ネイチャー』に『水から水素と酸素が発生する』との論文(1972年)を書きました。太陽エネルギーを使い、水からクリーンエネルギーの水素が発生しますので、第一次オイルショックとも前後して欧州の研究者の間で評判になり、また日本の新聞にも大きく紹介されてから世間の目がガラリと変わりました」

 「日本の新聞」というのは藤嶋氏がこれまで講演などで話されていることから推定すると「朝日新聞」を指すと思われる。つまり、「世間の目がガラリと変わる」には、英国の科学誌である「ネイチャー」の論文によって「欧州の研究者の間で評判になり」、さらに商業紙である「朝日新聞」に紹介されて、初めて日本の学界にも認知されたということだろう。

 「日本が相対的に高い地位を確保できている主要学問分野では、世界中の研究者が購読せざるをえない論文誌を最低1誌、政策的に育成すべきである」。4日開かれた特別シンポジウム「学協会の改革と機能強化」(日本学術会議など主催)で、学術情報の国際的な発信力を強化する必要がうたわれた(7月5日ニュース「国際的な論文誌育成、税制面での寄付優遇制度訴え」参照)。

 同じシンポジウムで特別講演した阿部博之氏(前総合科学技術会議議員、元東北大学総長)は、「古来文明の進歩、其の初めは皆、いわゆる異端妄説に起らざるものなし」という福沢諭吉の言葉を引用して「にせ物と本物とを区別する学会によるレビュー」の重要性を指摘している(2007年7月5日ハイライト「にせ物と本物とを区別するのは」参照)。

 自国の人間の優れた才能や画期的な研究成果は本来、自分たちでいち早く見つけ出し、評価すべきだ。外国の科学誌、研究者や日本の商業誌で評判になる前に、ということだろう。

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