レビュー

特筆される?ねつ造番組

2007.01.22

 消費者、小売店、メーカーを巻き込んだ納豆フィーバーも、2週間で“スプリンクラーが起動”、ひとまず鎮火という形になったようだ。

 しかし、この騒動が投げかける問題が小さくないのは、全国紙3紙が、21日朝刊1面トップで扱い、総合面や社会面でも関連記事を掲載していることでも明らかといえそうだ。

 問題の番組は、大阪の準キー局である関西テレビが制作、フジテレビ系列で全国に放映されている人気番組「発掘!あるある大事典Ⅱ」である。納豆のダイエット効果をうたったことから、番組が放映された7日以降、スーパーなどで納豆が売り切れという状態が続いていた。

 番組のねつ造個所について、各紙の報道内容は繰り返さない。「実験データから、写真や研究者の話まで、ほとんどでたらめだった」という読売新聞第2社会面の記事の記述で、十分だろう。これまで何回も起きているねつ造記事や放送番組の中でも、“スケール”の大きさは特筆ものに見える。

 こうしたねつ造番組の再出防止策は、まず放送界に真剣に考えてもらうとして、ここでは、この問題を最も大きく報道していた全国紙3紙に載った研究者のコメントを紹介したい。

 「食べ物は薬でも毒でもない。食べ過ぎれば太るし、避け続ければ栄養失調にもなる。『これさえ食べれば絶対こうなる』というような話は、納豆に限らずあり得ない」(高橋久仁子・群馬大学教育学部教授=食物学、読売新聞)

 「摂取エネルギーを消費エネルギーよりも少なくすれば体重は減る。事実はこれだけだということを視聴者の側が認識し、いい加減な情報に振り回されないよう自覚すべきだ」(同教授、朝日新聞)

 「納豆は良質のタンパク質を含み、栄養的にいい食品だ。だが、放送で強調されたような微量成分の『ダイエット効果』に、科学的根拠があったとは思えない」(井上修二・共立女子大学教授=臨床栄養学、朝日新聞)

 「納豆は1000年以上も日常的に食べられてきたが、やせるという作用は聞いたことがなかったので、本当かなと思っていた。物を食べているのにやせるというのは異常なことで、そんなことがあれば体に毒だ」(須見洋行・倉敷芸術科学大学教授=食品機能学、毎日新聞)

 これらのコメントから、「納豆のダイエット効果」がどの程度のものかは、普通の人なら理解できるのではないか。

 科学的根拠があいまいにもかかわらずさまざまな効能をうたう「健康食品」が売れるという社会事象は、日本に限ったことではないのかもしれない。米国でも、かつて全米科学アカデミーなどの検討チームが「カルシウム健康食品が、骨粗しょう症に効くという科学的根拠は疑わしい」という報告書を発表した、という記憶がある。

 しかし、その米国でも健康食品類の売り上げが減った、という現象は多分起きていないのではないだろうか。

 そうしたことを承知の上で、新聞報道では明確に指摘されていないことをあげたい。研究者あるいは学界の役割である。

 事が露呈してから「正しいことはこうです」という科学者の発言が、多くの人の目に触れる。そうではなく、騒動が進行中、あるいはことが起きる前に、学界として警告のアピールを発することはできなかったものだろうか。仮に一定の曖昧さが残るケースなら「科学的には大いに議論の余地がある」といった注意喚起の。ニュースになってからでは“後出しじゃんけん”のような印象を与えかねない…。

 このように考える研究者はいないものだろうか。今回のような健康問題に限らず、環境問題、防災その他、多くの社会的な問題全般についても。
(読売、朝日、毎日各紙の引用は東京版から)

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