レビュー

技術立国は絵に描いた餅か

2006.12.28

 「技術立国は絵に描いた餅だ」と、作家の高村薫氏が25日の毎日新聞夕刊特集ワイド面で語っている。

 日本社会のあり方に疑問を投げかけ、将来にも悲観的な見方を示す。こうした論評や記事が年の暮れになると目立つようになったのは、いつごろからだろか。ここ数年は、新年の紙面にもそうした記事が珍しくなくなった。

 毎日新聞の昨年元旦の紙面には、著名な経済学者、ガルブレイス・米国ハーバード大学名誉教授(今年4月死去)の次のような「提言」が載っていた。

 「経済学者は後ろに退き、教育者や芸術家ら家庭や地域社会の幸福に資する人たちが前面に出てこなければならない」

 第2次世界大戦後の社会で最初に求められたものは経済的な成功であり、それは経済学者の時代でもあった。しかし、これからの社会は違う、という文脈の中での言葉である。

 年末、新年には大体、社会の現状に疑問を呈する記事が多いということを、考慮に入れても、「技術立国は絵に描いた餅」と切り捨てられては、気になる人も多いのではないだろうか。

 高村氏の主張の根幹は「日本国が予想通り悪い国になってしまった」ということだ。「技術立国…」は、その中の1例として出て来るだけなので、直接の根拠としてあげられているのは「今や雇用者の3分の1が非正規ですから、モチベーションが保てない」と「その証拠に大企業が事故を起こしている」の2点だけである。

 ただし、全体を読むと、氏の危機意識がどのようなところから来ているのかを推察できる記述がある。

 「子どもに、学問をすることの楽しさや豊かさを教えられなくなったことも顕著になった(この)10年でした」、「価値観は多様なようで恐ろしく狭まりました」、「世論や政治を導く知識層が力を失いました」といった…。(毎日新聞の引用は東京本社版から)

ページトップへ