レビュー

ゆとり教育の影響で技術立国は ?

2006.11.10

 文芸春秋12月号が「ゆとり教育で『技術立国』崩壊」という特集記事を掲載している。

 立花隆氏が、小宮山宏・東京大学学長(教育再生会議委員)と、庄山悦彦・日立製作所会長(総合科学技術会議議員)に厳しく迫り、両氏が大半は同調しながら、穏やかに応酬するという流れである。

 「日本が生き残るには最先端のモノづくり」そのためには、最近の「工学部離れはゆゆしき現象」。これは3氏に共通の認識だ。

 立花隆氏は、10年前に東京大学でゼミを持った。2年目の新入生が、1994年学習指導要領改訂の1期生で「知力のグレードがガクンと下がって社会問題となった世代で、『東大生はバカになったか』という本を出すきっかけになった」という。

 「そして今年の大学の新入生は、学習内容の3割削減で問題となった新学習指導要領、いわゆる“ゆとり教育”で高1からずっときたはじめての世代ですが、この連中の異質さは10年前の比ではありませんよ」

 「一言でいえば意欲がない、やる気がない。先生に言われたことはやるけれど、自発的に行動することができない。それは、学習指導要領改訂前の去年の学生と改訂後の今年の学生で、歴然と違います」

 これに対し、小宮山宏氏は「ゆとり教育が元凶」と言う点では、基本的には同意しつつ、「時代の必然性があって指導要領が見直された」ことは認め、「全国一律で無理矢理やろうとした」など、やり方が悪かったことを指摘している。

 庄山悦彦氏は、「百人の学生がいるとしたら、トップクラスの数十人の学生は質の低下は起きていないどころか、目的意識を持ったいい学生がいる。しかし全体ではトップとそれ以外の学生の格差が広がっている」という日立製作所の採用担当者の話を紹介し、後者の部分について「確かに心配ですね」と応じている。

 さて、それならどうしたらよいか、となると、簡単ではなさそうだ。

 むしろ、記事の締めになっている庄山氏の発言に、状況の深刻さが表れているように見える。

 「私は、子どもより大人が心配です。科学雑誌が売れないなど、欧米に比べて日本の大人が科学に関心を持たないというのは有名な話ですね。…欧米日など25カ国の大人と子どもを対象にした科学技術に対する理解度と学力の調査では、日本の子どもの学力は世界第2位。ところが大人の理解度は22位。つまり下から4番目です。大人はついつい若い人たちには多くを期待しがちですが、我々自身が、もっと科学に目を開いていく必要があるんじゃないでしょうか」

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