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魚に寄生する貝の分布域は、貝を抱えた大きく元気な魚が広げてしまう

掲載日:2017年11月17日

風邪をひいているのに無理して会社に出てきた体力自慢の人が、周りに風邪をうつして広げてしまう。これは、職場という集団にとっては困ったことだ。似たような現象が、魚の世界でも起きているらしい。

米ミネソタ大学の照井慧(てるい あきら)研究員と北海道大学の研究グループが、北海道の川にすむヤマメと、ヤマメのえらに寄生するカワシンジュガイを調べたところ、大きくて体力があるヤマメはカワシンジュガイを寄生させたまま遠くまで運んで、その分布域を広げてしまうことが分かった。カワシンジュガイに寄生された場所から逃れて遠くに行こうとするのは、そのヤマメにとっては理にかなった行動だが、それが集団の利益と一致しない。無理して会社に来る人とは同列に論じられないが、集団の危機管理を考えると、これもまた困ったことだ。

カワシンジュガイは、日本では本州や北海道などの浅い川の底に生息している二枚貝だ。親の体内で育った幼生は、特定の時期になると水中に放出され、発育途中のヤマメのえらに取り付く。1匹のヤマメに数千ものカワシンジュガイが付くこともあり、ひどい場合は呼吸困難でヤマメは死んでしまう。40~50日かけて成長したカワシンジュガイはえらを離れ、川底に戻って定着する。したがって、えらにカワシンジュガイを付けたヤマメが移動して遠くへ行けば、カワシンジュガイはそこに分布域を広げることができる。

照井さんらは、カワシンジュガイの感染がヤマメの行動に与える影響を、北海道千歳市の長都川(おさつがわ)で実験して調べた。感染しているヤマメと感染していないヤマメをそれぞれ約100匹ずつ川に放して移動距離を調べたところ、感染している場合だけ、体長の長い大きなヤマメは、小さなヤマメより移動距離が長かった。照井さんによると、感染した現場から遠ざかって感染リスクを下げようとするのは、道中で待ち受ける身の危険を乗り越えられる大きなヤマメならではの行動だ。

さらに、体長の差による行動の違いがカワシンジュガイの分布拡大に与える影響を調べるため、実験で得たヤマメの行動をもとに、コンピューター・シミュレーションを行った。カワシンジュガイは、川の増水などでその場所から消えてしまうことがある。そこで、ある長さの川全体からカワシンジュガイがいなくなるとしたとき、それに要する期間を計算したところ、カワシンジュガイに感染したヤマメに特有の行動が、その期間を4倍に延ばしていることが分かった。また、分布域も6倍に広がっていた。感染した小さくて動かないヤマメは、その場所でカワシンジュガイをしっかり定着させ、大きなヤマメは遠くに逃げて分布域を広げてしまう。これによりカワシンジュガイは、より広範囲でしっかりと定着することになる。

照井さんによると、今回のヤマメと似た行動が他の動物でも起きている可能性があり、野生動物の病気が広がるしくみを解明するうえでも役立ちそうだという。

写真1 カワシンジュガイが寄生するヤマメの幼魚。右上の丸い写真は寄生されたヤマメのえら。白い点がカワシンジュガイの幼生。(写真と図は、いずれも照井さんら研究グループ提供)
写真1 カワシンジュガイが寄生するヤマメの幼魚。右上の丸い写真は寄生されたヤマメのえら。白い点がカワシンジュガイの幼生。(写真と図は、いずれも照井さんら研究グループ提供)
写真2 カワシンジュガイの親貝の集団。
写真2 カワシンジュガイの親貝の集団。
図 カワシンジュガイの一生。幼生は成熟すると親貝から水中へ放出され、取り付く相手(宿主)であるヤマメのえらに寄生する。寄生する期間は40~50日くらい。その間に別の場所へ運ばれ、そこでヤマメから離れて川底に定着する。
図 カワシンジュガイの一生。幼生は成熟すると親貝から水中へ放出され、取り付く相手(宿主)であるヤマメのえらに寄生する。寄生する期間は40~50日くらい。その間に別の場所へ運ばれ、そこでヤマメから離れて川底に定着する。
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