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哺乳類が硫黄でエネルギー代謝 「硫黄呼吸」を世界で初めて発見

2017.11.13

 動物は息を吸って空気中から「酸素」を、食事から「ブドウ糖」などを体内に取り入れ、その両方を血液の循環を使って全身の細胞に送り込む。細胞内のミトコンドリアは酸素でブドウ糖などを分解し、エネルギーを取り出す。このとき残りかすとして水と二酸化炭素が出る。要らない二酸化炭素は吐く息によって外に排出される。これが呼吸しているときに体内で起こる「細胞呼吸」と呼ばれるエネルギー代謝の仕組みだ。

 このほど、哺乳類の細胞呼吸に酸素を使ったもの以外に、「硫黄」を使ったものがあることを世界で初めて発見したと、東北大学などの研究グループが発表した。研究グループはこの新しい細胞呼吸を「硫黄呼吸」と名付けた。研究グループによると、硫黄呼吸は哺乳類が生きる上で必要不可欠な仕組みとして存在しているという。論文は英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに掲載された。東北大学大学院医学系研究科の赤池孝章(あかいけ たかあき)教授、東北大学加齢医学研究所の本橋ほづみ(もとはし ほづみ)教授、生理学研究所の西田基宏(にしだ もとひろ)教授らによる共同研究の成果となる。

 研究グループの赤池さんらは2014年に、哺乳類の体内で、硫黄を含んだアミノ酸「システイン」にさらに硫黄が結び付いた「システインパースルフィド」という物質が大量に存在していることを突き止めていた。今回細胞内のミトコンドリアにある酵素に、システインパースルフィドを酸素の代替物とする働きがあることが分かった。これによって硫黄呼吸の仕組みの存在が明らかになったという。

図1 システインとシステインパースルフィドの構造(提供・東北大学)
図1 システインとシステインパースルフィドの構造(提供・東北大学)

 硫黄呼吸は、酸素による細胞呼吸と同様にブドウ糖を利用してエネルギー代謝をする。その際、酸素による呼吸で作られる「水」の代わりに、毒性のある「硫化水素」が排出されるとみられている。哺乳類には硫化水素を分解するための酵素が備わっており、これによって分解して硫黄を取り出し、また硫黄呼吸で再利用されるという。人では硫黄成分を主に食物から摂取しており、身の回りの食品ではネギやニンニクの辛み成分に多く含まれることが知られている。

 研究グループはまた、硫黄呼吸に必要な代謝機能の一部を不全にしたマウスを作成して実験した。その結果、生まれて3〜4週目を境にして成長が著しく悪くなることが分かったという。硫黄呼吸が哺乳類の生育に必要不可欠であると示すものだと研究グループは考えている。

 通説では、およそ40億年前の地球の大気中には酸素がなく、生物は硫黄分子を使って細胞呼吸を行っていたとされる。研究グループは、大気中に酸素ができたことで、生物の呼吸の中心がより爆発的なエネルギーを獲得できる酸素を使ったものに置き換わったが、一方で硫黄呼吸も失われずに哺乳類まで受け継がれてきたとみている。

 赤池さんは「動物は植物と違って酸素を自給自足することができない。硫黄は硫黄呼吸のサイクルの中で自給自足が出来るので、酸素呼吸と上手く組み合わせて使いながら動物は生きてきた、と考えると一通りの理屈が通る。今後は実験などでこういったことを証明していきたい」と話す。

 これまで、血液を作る幹細胞や一部の悪性のがん細胞などは酸素が少なくても生存していることが知られており、硫黄呼吸がこれらの細胞の維持や増殖に関わっている可能性があるという。赤池さんは、硫黄呼吸の解明が悪性のがんの治療や予防への応用の他、呼吸器・心疾患、老化防止といった幅広い分野への展開を期待していると話す。

図2 硫黄呼吸の模式図(提供・東北大学)
図2 硫黄呼吸の模式図(提供・東北大学)
写真 正常マウスと硫黄代謝不全のマウス(提供・東北大学)
写真 正常マウスと硫黄代謝不全のマウス(提供・東北大学)

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