ニュース

超臨界流体で全自動化の分析装置開発

2015.01.27

 液体と気体の双方の性質を持つ超臨界流体を利用して、多成分の一斉分析を高速に行う世界初の分析システムを、大阪大学大学院工学研究科の馬場健史(ばんば たけし)准教授らが開発した。新しい分析システムは、CO2の超臨界流体を用いた自動抽出装置とクロマトグラフで、前処理、分離、検出をすべて自動化した。超早期診断やテーラーメード医療(臨床分野)、薬効分析・毒性評価(創薬分野)、食品中の栄養・機能成分の研究(食品分野)などでの活用が期待される。開発チームの島津製作所(京都市)がこの分析装置の販売を始めた。神戸大学医学部や宮崎県総合農業試験場との共同開発で、1月27日に発表した。

 食品や血液などの複雑で多くの成分を含む物質を分析する前には、分離や精製といった熟練を要する煩雑な前処理を人手で行う必要があり、自動化が難しかった。人為ミスによる回収率の低下や結果のばらつきが発生していた。また、この前処理の際に試料が空気に触れて、成分が酸化や分解してしまうこともあり、正確な測定が困難になる場合もあった。

 これらの問題を一挙に解決する手段として、開発チームはCO2の超臨界流体を用いて、多成分の一斉分析を自動、高速に行える分析システムを目指した。超臨界流体ガスクロマトグラフィー(SFC)や超臨界流体抽出(SFE)の装置はそれぞれ存在するが、超臨界流体を有効に活用できるように接続したオンラインSFE-SFCは実用化されていなかった。

 大阪大学と島津製作所がSFC装置の開発に取り組み、高精度の圧力制御装置を開発した。並行して、島津製作所、大阪大学、宮崎県がSFE装置開発に取り組み、試料の吸着、脱水などの技術、多検体に対応したシステム開発を行った。続いて、SFCとSFEを接続した装置の原型機を構築し、大阪大学、宮崎県、神戸大学で検証実験を重ねて、問題の解決に取り組んで完成度を高めた。

 最終的にSFEとSFC-MS(質量分析)の自動化技術に仕上げ、標準試料や実試料(農産物・食品・血液)で有効性を検証して、多検体の解析が可能な超臨界流体抽出分離オンラインシステムを構築し、製品化した。このシステムは、目的成分の抽出から分析までを世界で初めて自動化して、有機溶媒の使用量を大幅削減し、サンプルが空気に触れないようにして、酸化されやすい物質の分解を防止しつつ、熟練の手作業を要する前処理を不要にし、手作業に起因するバラツキを抑制した。

 世界最多の最大48検体の連続抽出・分析を実現した。しかも、低容量低拡散で、従来の装置に比べて6倍も感度を上げた。例えば、食品中の残留農薬の分析では、従来はかき混ぜや遠心分離などで約35分かかっていた前処理をわずか5分に短縮でき、有機溶媒の使用量を約10分の1に削減できた。これまで複数の装置が必要だった分析も、このシステムだけで約500種類の成分を一斉に測定することが可能となった。

 馬場健史大阪大学准教授は「CO2は31.1℃以上、73気圧以上と、比較的簡単な条件で、気体と液体の両方の性質を併せ持つ超臨界流体にすることが可能で、分析システムに利用しやすい。この新しい装置で、ガスクロマトグラフや液体クロマトグラフにはない幅広い分離方式を用いるため、一方の装置だけでは分離できない化合物までを一斉分析でき、高速で精度の高い多成分のスクリーニングが可能になった。臨床や創薬、食品の研究など多くの分野での活用が期待される」と意義を強調している。

新しい全自動化一斉分析のオンラインSFE-SFC-MSシステムの構成外観
図. 新しい全自動化一斉分析のオンラインSFE-SFC-MSシステムの構成外観
新しい装置で測った農薬500成分の一斉分析
グラフ. 新しい装置で測った農薬500成分の一斉分析
(いずれも提供:大阪大学)

ページトップへ