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乾燥に強い新種カタツムリが岡山にいた

2015.01.15

 岡山県南部と香川県の一部の島に、乾燥に強いカタツムリの新種が分布することを、国立科学博物館の亀田勇一(かめだ ゆういち)支援研究員と岡山大学大学院環境生命科学研究科の福田宏(ふくだ ひろし)准教授が確認した。市街地近くに生息していたにもかかわらず、今まで見過ごされてきた。さまざまな意味で「驚異の新種」である。1月15日刊行の日本貝類学会誌Venusに発表した。この新種の存在を世に伝える特別展が3月30日(火曜と祝日の翌日が休館)までの日程で、岡山県自然保護センター(和気町田賀)で始まった。

 このカタツムリは殻径が13〜22㎜で、西日本に広く分布するシメクチマイマイと殻の形、色彩、大きさなど形態の特徴からは識別できず、混同されてきた。新種を最初に疑ったのはアマチュア研究家の多田昭(ただ あきら)さん(元香川中部養護学校教諭)。岡山県倉敷市の山林で約20年前に採取したカタツムリがシメクチマイマイとやや異なることに気づいた。解剖すると、生殖器の形が違っていた。さらに、研究グループが遺伝子のDNAの塩基配列を解析して、違いを見つけ、新種と突き止めた。

 多田さんの洞察力と見識をたたえて、その名前にちなみ、アキラマイマイと名付けた。その分布は、岡山県南部(岡山市、早島町、倉敷市、玉野市、浅口市)と香川県の塩飽(しわく)諸島、荘内半島先端と、大半は干拓以前に離島だった場所に限られる。対照的に、シメクチマイマイはもともと陸地であった場所に主として分布する。このため、この2種は備讃地方の海岸線の歴史的変遷を今に伝える「語り部」のような存在といえる。

 アキラマイマイの分布する瀬戸内海中央部沿岸域は、降雨量が少ないことで知られている。一般に、そのような乾燥した環境は湿気を好む陸産貝類にとって過酷とされる。実際に岡山県南部は、他の地方に比べて陸産貝類の種の多様性が低く、貝類研究者は「全国屈指のカタツムリ不毛の地」とみていた。アキラマイマイは乾燥に強く、水分を1カ月与えなくても行き続けた個体がいた。研究グループは「アキラマイマイは乾燥に耐える性質を獲得し、『過酷な乾燥の地』で独自の進化を遂げた比類のない種」とみている。

 シメクチマイマイとアキラマイマイはおおむね分布域が異なるが、両種の分布の境界では過去の交雑の証拠も見つかっている。特に倉敷市北部や浅口市西部では両種の産地が最短で500mまで接近しており、そこで2種の間にどんなことが起きているかは、進化生物学の興味深いテーマとなる。また、両種とも主に低地の里山環境に生息するため、近年の都市化で減少傾向にあると考えられる。「特に、新種のアキラマイマイは狭い範囲の固有種であるため、絶滅危惧種に相当し、保全措置が必要」と提言している。

 福田宏准教授は「岡山市内の岡山大学のキャンパスにもいたのに、これまで新種の固有種とは気づかなかった。形態から見分けがつかなくても、別種である可能性はほかにもあるだろう。カタツムリがいそうもない乾燥した地域にも、こうした固有種が進化していたのは驚きである。ただ、個体数が少なく、絶滅が懸念される」と話している。

写真. シメクチマイマイ(左)とアキラマイマイ(右)。外形からは識別できない。
地図. 約1500?2000年前の岡山県南部(海岸線は推定)に、アキラマイマイ(●)とシメクチマイマイ(▲)の現在の分布を重ねた地図。オレンジ色は両種の交雑の痕跡が認められる個体群。アキラマイマイの大半は、当時離島だった場所に分布が限られている。
(いずれも提供:岡山大学)

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