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深在性真菌症創薬の標的となる酵素発見

2015.01.15

 脳や肺、心臓の内部に及ぶ深在性真菌症の創薬の標的となる新しい酵素と代謝経路を、九州大学大学院農学研究院の伊東信(いとう まこと)教授と大学院生の渡辺昂(わたなべ たかし)さんらが発見した。糖脂質のエルゴステリルグルコシドを分解する酵素(EGCrP2)で、深在性真菌症原因菌の糖脂質代謝の仕組みを初めて解明した。

 EGCrP2を働けなくした真菌では、エルゴステリルグルコシドが分解されずに液胞に蓄積し、増殖が阻害される。EGCrP2はヒトに存在しないが、クリプトコッカス症、カンジダ症などの深在性真菌症の原因菌に普遍的に存在するため、深在性真菌症創薬の新しい手がかりになる。1月9日付の米科学誌The Journal of Biological Chemistryに発表した。

 クリプトコッカス症、カンジダ症、アスペルギルス症、ムコール症などの深在性真菌症は日本でも年々増え続けている。治療薬はあるが、効果が低下する耐性菌の出現、副作用などから新薬の開発が望まれている。深在性真菌症の原因菌には糖脂質のエルゴステリルグルコシドが存在するが、その代謝の仕組み、特にエルゴステリルグルコシド分解酵素は未解明だった。

 研究グループは2012年に、真菌の一種のクリプトコッカス・ネオフォルマンスの糖脂質のグルコシルセラミドを分解する酵素EGCrP1を見いだした。今回、EGCrP1とアミノ酸配列が似た酵素がクリプトコッカス症、カンジダ症、アスペルギルス症、ムコール症などの深在性真菌症原因菌に広く存在することを発見し、EGCrP2と命名して、その性質を調べた。

 その結果、このEGCrP2は、 EGCrP1が分解できないエルゴステリルグルコシドを分解できることを確かめた。EGCrP2の遺伝子を欠損させたクリプトコッカスを作製したところ、エルゴステリルグルコシドが液胞と呼ばれる細胞内小器官に蓄積し、十分に細胞分裂しなくなることもわかった。

 伊東信教授は「EGCrP2を発見したことで、深在性真菌症原因菌のエルゴステリルグルコシド代謝系が解明され、新しい概念に基づく深在性真菌症治療薬の開発が可能になった。ヒトには存在せず、深在性真菌症原因菌には普遍的に存在するので、副作用が少なく、適用範囲の広い真菌症治療薬につながることが期待できる。今後はEGCrP2の特異的な阻害剤の開発に全力を尽くしたい」と話している。

エルゴステリルグルコシド代謝の仕組み
図1. エルゴステリルグルコシド代謝の仕組み
EGCrP2による、エルゴステリルグルコシドの分解
図2. EGCrP2による、エルゴステリルグルコシドの分解
ガンマ線に比べて、炭素イオンビームの照射で、DNAの傷が密集して生じていることを示すデータ
図3. 真菌の野生株と EGCrP2欠損株の比較
(いずれも提供:九州大学)

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