ニュース

できたぞ、流体チップのガラスポンプ

2014.06.04

 超薄板ガラスの柔軟性を利用したガラス製マイクロ流体チップ内の電動ポンプを、理化学研究所(理研)生命システム研究センターの田中陽(たなか よう)ユニットリーダーが開発した。医療診断向けの小型・高速反応の次世代バイオデバイスの基盤になりそうだ。5月23日付のスイス科学誌マイクロマシーンズのオンライン版に発表した。

 ガラス製のマイクロ流体チップは、数cm角のガラス基板上に幅・深さ1mm以下の流路をつくり、化学・生化学のプロセスを集積化したもので、次世代バイオデバイスとして期待されている。しかし、ガラスは硬いため、その中に流体を制御するバルブやポンプを組み込むことが難しく、流路をマイクロレベルで集積するメリットが生かせなかった。

 田中ユニットリーダーは2013年、超薄板ガラスでバルブを作製し、すべてがガラス製のマイクロ流体チップをまず実現した。超薄板ガラスは、厚さが10マイクロメートル(μm)以下と極めて薄いため、柔軟性が高いという特長を持っている。

 今回はさらに、ガラスバルブを4つ直列に並べ、コンピューター制御のアクチュエータでピンを高速で動かし、チップ内の液体を絞り出す電動ポンプを開発した。直列に並ぶ4つのバルブのうち、1つだけバルブを開いた状態にして、順番に開く位置をスライドさせ、流体チップ内の液を送り出す。バルブは厚さ6μmの超薄板ガラスを熱融着して形成した。

 実証実験の結果、ガラス製のマイクロポンプはさまざまな溶液に対して、安定した機能を示した。エタノールやアセトンなどの有機溶媒でも、問題なく作動した。流量はアクチュエータの周波数に比例して調節でき、最大で毎分0.80マイクロリットル(μL)だった。これは分析や細胞培養などによく使われる流量の範囲にあるという。

 開発したマイクロ流体チップ内電動ポンプは、さまざまな溶液に対して安定で、幅広い集積化学システムに応用できる。田中ユニットリーダーは「超薄板ガラスの微細加工など周辺技術の開発に試行錯誤を重ねた。数ミリ秒のオーダーで高速に動く制御システムも苦労して実現した。このポンプは、医療診断、1個の細胞の操作、分子合成などの分野に応用できるだろう」と話している。

Aはガラス製マイクロ流路チップ内電動ポンプの駆動原理(断面図)、Bはデザイン
図1. Aはガラス製マイクロ流路チップ内電動ポンプの駆動原理(断面図)、Bはデザイン
今回開発したマイクロ流体チップ内電動ポンプ
図2. 今回開発したマイクロ流体チップ内電動ポンプ。(A)超薄板ガラスとガラス製のマイクロ流体チップ、(B)アクチュエータ、(C)セットしたマイクロ流体チップとアクチュエータ、(D)Cの裏側
(いずれも提供:理化学研究所)

ページトップへ