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受精卵が分裂始める詳しい仕組み解明

2014.05.02

 たった1個の受精卵から細胞分裂を繰り返して、動物は大人になる。その最初の分裂開始の仕組みを、九州大学大学院理学研究院の佐方功幸(さがた のりゆき)教授と大学院生の迫洸佑(さこ こうすけ)さんらが分子レベルで初めて解明した。ヒトを含む脊椎動物の発生開始の謎に迫る成果として注目される。4月28日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。

 脊椎動物の卵子は、排卵後に細胞分裂を停止して受精を待つ。その分裂停止は、卵子の中で分裂開始因子のタンパク質複合体APC/Cに、別のタンパク質Emi2が結合して、その活性を阻害して起きている。受精すると、Emi2が分解されて、細胞分裂が始まることは分かっていたが、なぜ細胞分裂が開始できるのか、詳しい仕組みは謎だった。

 研究グループは、卵子が大きくて解析しやすいアフリカツメガエルの卵で研究した。まずAPC/Cの活性化に関わる酵素Ube2Sに着目し、受精前後の振る舞いを追跡した。Ube2Sを卵細胞質から除くと、人工授精させても卵は正常に分裂を始めなかった。さまざまな実験を重ねて、未受精卵ではEmi2が結合して、Ube2SのAPC/Cへの結合を阻害しているが、受精でEmi2が分解されると、Ube2SのAPC/Cへの結合が可能となり、APC/Cが活性化されることを突き止めた。

 さらに、Emi2とUbe2Sはよく似たアミノ酸配列の部位を持っており、APC/Cの同一部位に結合することもわかった。研究グループは「受精では、Emi2によって“ハイジャック”(阻害)されていたAPC/CがUbe2Sによって“解放”(活性化)され、分裂が開始する」と、 受精卵の分裂開始の非常にユニークな仕組みを例えている。

 佐方功幸教授は「受精前に卵子が分裂を止め、受精によって分裂を開始することはともに重要な意味を持つ。新しい個体が誕生する最初の出来事の仕組みを詳しく解明できた。受精の時の分裂開始の巧妙な仕組みに感心する。ハイジャックからの解放シナリオは、ヒトでも起きているだろう。卵子に異常がある不妊の診断や治療法につながる可能性もある」と話している。

受精卵の分裂開始の仕組み
図. 受精卵の分裂開始の仕組み(提供:佐方功幸九州大教授)

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