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新生児の脳の神経回路成長をマウスで観察

2014.03.28

 生後間もないマウスの大脳皮質の神経回路が劇的に成長する様子を直接観察するのに、国立遺伝学研究所(静岡県三島市)の岩里琢治(いわさと たくじ)教授と水野秀信(みずの ひでのぶ)助教らが世界で初めて成功した。ヒト赤ん坊の脳発達の解明に迫る重要な一歩としている。日本時間3月28日に米科学誌ニューロンのオンライン版に発表した。

 ほ乳類に特有のしわしわの大脳皮質には複雑な神経回路があり、知覚や運動、思考、記憶などの高度な情報処理をしている。この大脳皮質は生まれた時は未熟だが、赤ちゃんはさまざまな刺激を受け、神経回路を劇的に成長させる。その様子を見た人は誰もいなかった。

 岩里教授らはマウス大脳皮質の神経回路を生きたまま観察できる技術を初めて開発した。大脳皮質の神経細胞を明るく、まばらに赤色蛍光タンパク質で標識する「スーパーノバ(超新星)法」と、視床−皮質軸索を緑色蛍光タンパク質で染める方法を駆使した。さらに、脳の深部まで捉える二光子顕微鏡の観察技術も改良した。これらの新技術を組み合わせて、マウスの新生児大脳皮質の神経回路が成長する様子を直接観察した。

 生後4、5日目の新生児マウス大脳皮質の同じ神経細胞を9時間か18時間にわたって観察した。神経細胞は突起を激しく伸び縮みさせながら、結合すべき神経細胞に向かって突起を広げていった。遺伝子操作でNMDA型グルタミン酸受容体の働きを抑え、情報をうまく受け取れなくした神経細胞では、突起の伸び縮みが異常に激しくなり、むちゃくちゃに突起が広がった。

 この観察で、脳発達の正常と異常の違いがよくつかめた。また、夜行性の動物であるマウスはヒゲの感覚が発達しているが、1個の神経細胞には1本のヒゲからだけ情報が入るようにする樹状突起の形成過程も今回、明らかになった。
岩里教授は「これまで新生児の脳の成長を生きたまま観察する方法はなかった。視床から大脳皮質に入る最初の部分は、ほ乳類に共通なので、ヒトの赤ちゃんでも同じことが起きているだろう。新生児の脳は多様な刺激をいっぱい受けて、まっさらな状態からがんがんと発達する。その解明に一歩を踏み出した。観察技術をさらに向上させて、ほ乳類の新生児の大脳皮質で何が起きているか、を追求したい」と意欲を見せている。

大脳皮質の体性感覚を処理する神経回路の蛍光標識。
左下は、ヒゲ1本1本に対応した大脳皮質の「バレル」と呼ばれる構造。左下の四角部分の拡大図、大脳皮質神経細胞(赤色)はバレル内側(緑色)だけに伸びている
写真. 大脳皮質の体性感覚を処理する神経回路の蛍光標識。
左下は、ヒゲ1本1本に対応した大脳皮質の「バレル」と呼ばれる構造。左下の四角部分の拡大図、大脳皮質神経細胞(赤色)はバレル内側(緑色)だけに伸びている
神経細胞の樹状突起の18時間の伸縮の変化
図. 神経細胞の樹状突起の18時間の伸縮の変化

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