ニュース

結核・アフリカ睡眠病、“1検体100円”の診断キット

2013.12.17

 北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターの鈴木定彦(やすひこ)教授、梶野喜一准教授らの研究グループは、「結核」と「アフリカ睡眠病」を迅速に診断するキットを、1検体あたり約100円の低コストで開発したと発表した。アフリカ睡眠病の診断キットはアフリカ・ザンビア共和国の医療現場で活用され、結核の診断キットは現地の大学病院で評価試験が行われている。さらに多くの開発途上国での活用が期待される。

 結核は「結核菌」によって引き起こされる感染症で、地球上にすむ人間の3分の1が感染し、毎年約900万人が新たな患者となり、約140万人が死んでいる。結核患者の4分の3はアジア・アフリカ諸国に集中している。日本での2011年の新規患者は2万2,681人、死亡者は2,166人にのぼる。

 アフリカ睡眠病は、ツェツェバエが媒介する寄生性原虫「トリパノソーマ」によって引き起こされる感染症で、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国に見られる。早期に発見した場合には治療できるが、中枢神経系への障害が出現し、こん睡症状などを呈した患者のほとんどは死に至る。年間の死亡者は約5万人とも推定されるという。

 これまでの結核の確定検査は、患者の喀痰(かくたん)中の結核菌を培養し、直接顕微鏡で観察する方法(塗抹鏡検)で行われているが、ある程度病気が進行しないと結核菌が出ない。検査操作が煩雑で、培養から結果の判定まで約1カ月と時間がかかること、さらに実験室感染のリスクなどもある。またアフリカ睡眠病についても、患者の血液や脳脊髄液からトリパノソーマ原虫を顕微鏡下で見つけることだが、現地での検出感度は低く、マラリアなどの他の熱性疾患との誤診も多かった。そのため、これらの疾患に対する高感度で迅速な診断法の開発が望まれていた。

 研究グループは、従来の遺伝子増幅法(PCR法など)とは違って、試験管内で温度の上げ下げを行わずに遺伝子を増幅する「LAMP法」を応用することで、簡単に安く、迅速に結核菌およびトリパノソーマ原虫の遺伝子を検出する技術を開発した。さらに低温設備の整っていない開発途上国でも使えるように、すべての試薬を乾燥状態にした診断キット(1検体当たり約100円)と、蛍光の違いで陽性・陰性を判定する低コストの「小型蛍光検出器」(約3,000円)を開発した。同検出器は単三電池4本で使用可能であるため、開発途上国の電気の来ていない地域でも診断が可能だ。

 これらの技術により、結核とアフリカ睡眠病の安価な早期診断が可能となり、適切な治療が発病早期から開始され、死亡者数や大幅な患者数の低減にも貢献できるという。

 研究成果は、科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)が連携して実施する「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム」(SATREPS)・研究領域「開発途上国のニーズを踏まえた感染症対策研究」(研究課題名:結核及びトリパノソーマ症の診断法と治療薬開発)によって得られた。

乾燥型結核診断用LAMPキット(提供:北海道大学)
乾燥型結核診断用LAMPキット(提供:北海道大学)
小型蛍光検出器による陽性・陰性判定(提供:北海道大学)
小型蛍光検出器による陽性・陰性判定(提供:北海道大学)

ページトップへ