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悲しい音楽がもたらす“心地よさ”

2013.05.27

 悲しい音楽を聴くと必ずしも悲しくなるとは限らず、ロマンチックな“快い”気分にもなることが、理化学研究所「脳科学総合研究センター」の岡ノ谷一夫チームリーダーや川上愛客員研究員、東京芸術大学の古川聖教授らのグループが男女44人の協力で行った鑑賞実験で分かった。感情の研究では「悲しみ」は“不快な”感情に分類されているが、今回の研究結果は、私たちがあえて悲しい音楽を聴こうとする行動解明の手がかりとなるものだという。

 研究グループは、グリンカ作曲「ノクターン」などの既存曲の一部を抜粋して、30秒間程度の短調の“悲しい曲”を編集し、これを18-46歳の44人(男性19人、女性25人)に聴いてもらった。鑑賞後に「一般的に多くの人は、この曲をどう感じるか」「あなたはどう感じたか」を尋ね、それぞれに「悲しい」や「愛おしい」「浮かれた」「圧倒された」といった62種類の感情を表す用語を選び、その強度(0-4)を回答してもらった。

 実験参加者の44人を音楽経験のあるグループ(17人)と無いグループに分けた。回答者が選んだ用語を、相関関係の強いもの同士に「悲しみ因子」(悲しい、ゆううつ、沈んだ…など)、「高揚因子」(圧倒された、興奮した、刺激的な…など)、「ロマンチック因子」(うっとりした、愛おしい、恋しい…など)、「浮き立ち因子」(浮かれた、快活な、踊りたいような…など)の4 因子に分けて解析した。

 その結果、音楽経験の有無とは無関係に、聴いた曲に対する感じでは「悲しみ因子」の強度が他の3因子よりも突出し「強い悲しみの曲である」と判断したものの、自分自身ではそれほどの悲しみを感じていなかった。実際に「どう感じたか」の評価では、突出した因子はなかったが、ロマンチック因子については、聴いた音楽が「ロマンチックなもの」と判断する以上に、自分自身がロマンチックな感情を体験していたことが分かった。

 「悲しい音楽がロマンチックな感情ももたらす」という今回の結果に、研究グループは「芸術には快と不快の“両価的な”感情を引き起こす作用があることが分かった。悲しい音楽や悲劇が鑑賞者に悲しみをもたらすと同時に、心地よさなど“快の感情”ももたらすからこそ、私たちは自らこうした芸術を求めるのではないか」と述べている。

 研究論文”Sad music induces pleasant emotion“は、スイスの科学誌『Frontiers in Psychology』(オンライン版、23日)に掲載された。

「どういう音楽であるか」の判断と実際に「どう感じたか」の評価(提供:理化学研究所)
「どういう音楽であるか」の判断と実際に「どう感じたか」の評価(提供:理化学研究所)

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