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免疫系をすり抜ける“ステルス粒子”

2013.05.13

 発酵や醸造に関わる麹(こうじ)菌由来のタンパク質を表面にコーティングすることで、体内の白血球などの免疫系に見つからないステルス(隠密)機能をもったナノ粒子を作ることに、東北大学「未来科学技術共同センター」の阿部敬悦教授や、原子分子材料科学高等研究機構の阿尻雅文教授らの研究グループが成功した。体内に投与した場合に血中で凝集せずに分散し、目標となる臓器や器官に効率よく届くことが予想されることから、画像診断や薬物療法などでの利用が可能になるという。

 大きさがナノメートル(10億分の1メートル)サイズの超微粒子、いわゆる「ナノ粒子」は MRI(核磁気共鳴画像法) や 薬物伝達に関するDDS(ドラッグ・デリバリー・システム) などの医療分野への応用が図られているが、血中に投与したナノ粒子が、肝臓や脾臓などの生体防御に関わる細胞内で白血球やその一種のマクロファージ(大食細胞)などによって捕捉され、標的組織へ送達できないことが課題となっている。

 研究グループは、黄麹菌が作り出すタンパク質(RolA)が、マクロファージなどのヒトの免疫系に捕まらない免疫応答回避(ステルス)機能を持つことに着目し、このタンパク質を酸化鉄の表面にコーティングしたナノ粒子(直径10-20ナノメートル)を作製した。動物細胞での試験の結果、開発したナノ粒子はマクロファージに貪食されず、同じ免疫系に関わる樹状細胞からもサイトカイン(免疫反応の結果出てくる細胞間情報伝達性タンパク質)が産生されないことから、ステルス機能を確認した。

 さらに、溶液中におけるペーハー(pH)ごとの粒子表面の電荷(ゼータ電位)を測定したところ、血液と同じ中性付近で大きな負電荷を帯びることから、血中では高い分散性を示し、免疫系に見つかりやすくなる凝集性をもたないことが考えられるという。

 今回開発したステルス・ナノ粒子について研究グループは、さらにマウスなどの動物試験を行い、最終的にはヒトへの応用を目指したいとしている。

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