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すい臓欠損ブタですい臓再生

2013.02.19

 遺伝子操作によって作ったすい臓のないブタの体内で、別のブタの正常なすい臓を作ることに、東京大学医科学研究所の中内啓光教授とJST戦略的創造研究推進事業・ERATO型研究「中内幹細胞制御プロジェクト」の松成ひとみ研究員、同プロジェクトチームの明治大学農学部生命科学科の長嶋比呂志教授らの研究チームが成功した。

 チームは、ある遺伝子が過剰に働くとすい臓が形成されないことに注目した。その遺伝子を顕微授精法によってブタの卵子に注入し、すい臓欠損ブタを作った。すい臓のないブタは、誕生して間もなく重度の高血糖症などで死んでしまうので、繁殖させることはできない。そこで、すい臓欠損ブタの体細胞からクローン胚を作り、これに別の正常なブタのクローン胚の細胞を注入して、別の雌の子宮に戻して出産させた。その結果、生まれた仔ブタには、注入した細胞からなる正常なすい臓ができ、その後成長して、すい臓機能や繁殖能力も正常であることが確認されたという。

 特定の細胞が欠損した胚に正常な胚を導入して置き換える方法は「胚盤胞補完法」と呼ばれる技術で、研究チームはすでにこの技術で、すい臓が欠損したマウスの体内でラットのすい臓を作ることに成功している。今回はさらにこの技術を、ヒトに似た特徴を持つブタに応用して成功した。

 すい臓欠損ブタの体内に、すい臓への分化を誘導したヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)などを移植することで、ヒトのすい臓を作り出せる可能が見えてきたが、現在の国の指針では、ヒトの細胞を注入した動物胚から仔を作らせることは禁じられている。研究チームは「生命倫理や法律についての議論が進むことが期待される」と述べている。

 研究論文“Blastocyst complementation generates exogenic pancreas in vivo in apancreatic cloned pigs(胚盤胞補完を利用したすい臓欠損ブタ内における外来性細胞由来すい臓の作出)”は、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」(18日、オンライン版)に掲載される。

研究内容全体を示す模式図
研究内容全体を示す模式図(提供:JST)

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