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環境ダイオキシン、子どもの心にも影響か!?

2012.12.20

 東京大学大学院医学系研究科・疾患生命工学センターの遠山千春教授や掛山正心助教らのグループは、残留性有機汚染物質のダイオキシン※を微量投与した母マウスから生まれたマウスが、成長後に脳の柔軟性が低下し、集団行動に異常が生じることを突き止めた。母体に取り込まれた環境化学物質が子どもの「心の健康」を害し、精神神経症状を引き起こす可能性を示す初めての報告だという。研究論文が12日、オンライン科学誌「プロスワン(PLOS ONE)」に掲載された。

 遠山教授らは、ヒトの高次脳機能に相当する認知機能と社会性機能を調べることができる独自の行動試験技術を開発した。ごく微量(体重1キログラム当たり0.6マイクログラムおよび3.0マイクログラム)のダイオキシンを投与した母マウスから生まれたマウス(ダイオキシン曝露〈ばくろ〉マウス)について、飼育箱(試験装置)の四隅に置いた水飲み場のうち、対角にある2つを“正解”の水飲み場として使わせる行動習慣を習得させ、その後、水飲み場を別の対角の2つに変更して適応力を評価する「逆転課題」を繰り返し行った。

 その結果、ダイオキシン曝露マウスは、行動習慣の習得はできるものの「逆転課題」の状況変化に対する適応性(行動柔軟性)が低下していることが明らかになった。また、これらのマウスには、報酬(飲水)獲得のための反応を繰り返す、不必要な「反復行動」も見られた。この反復行動は、正解の水飲み場において特に多く観察されたことから、欲求の抑制ができない時に生じるような行動パターンの異常と考えられるという。

 また、12匹のマウスを集団生活させ、1日のうち数分間だけ大勢で水飲み場を奪い合う社会的競争状況を作ったところ、ダイオキシン曝露マウスの活動レベルは低下した。これは水飲みに対する欲求よりも、他者との接触に伴うストレスを避けているためと考えられ、「自閉症スペクトラム障害」や「不安障害」をもつ人の、他者との接触を避ける傾向にも似ているという。

 さらに、神経活動の指標である「Arc」というタンパク質分子の、脳内での発現の分布を調べた。行動異常が観察されたダイオキシン曝露マウスでは、行動柔軟性や社会性行動などの認知機能をコントロールする脳領域の「前頭前皮質」においてArcの量が、減少し、恐怖や不安といった情動反応をつかさどる「扁桃体」では増加していた。このことは、母のダイオキシンの曝露によって、その子どもの脳に神経活動のアンバランスが生じていることを示す。今回の結果はそのままヒトには適用できないが、「環境化学物質が、自閉症症状などの「発達障害」の発症や重症化の要因となる可能性を強く示唆するものだ」という。

 ※ダイオキシン:「ポリ塩素化ジベンゾジオキシン」「ポリ塩素化ジベンゾフラン」「コプラナーポリ塩素化ビフェニル」という3種類物質群の総称。地球規模で汚染が広がっており、環境中・食品中に広く存在する。微量でさまざまな毒性を有する。

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