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自分の排泄物を植物に吸収させるアブラムシ

2012.11.15

 植物の葉枝に「虫こぶ」という密閉空間を作り集団生活しているある種のアブラムシは、自分たちの排泄物を植物に吸収させて快適な環境を保っていることを、産業技術総合研究所生物共生進化機構研究グループの沓掛磨也子研究員と深津武馬研究グループ長らの研究で分かった。昆虫が植物の形態や生理状態を自分の生存に有利になるように操作しているもので、外部要因による植物の性質の制御という観点からも注目されるという。

 植物の汁だけを吸って生きるアブラムシは、大量の液体排泄物「甘露(かんろ)」を体外に排出する。この糖分を多く含む甘露をアリが摂取し、アブラムシを外敵から守るという「共生」関係も一般に知られる。アブラムシの仲間には植物に寄生して中空の虫こぶを作り、その中で集団生活をするものがある。その多くは開口部のある開放型の虫こぶで、アブラムシの兵隊幼虫が甘露を開口部から外に捨てて処理している。ところが開口部のない完全閉鎖型の虫こぶでは、甘露がどのように処理されているのか分からなかった。

 研究チームは、マンサク科の常緑高木「イスノキ」の葉や枝に完全閉鎖型の虫こぶを作る「モンゼンイスアブラムシ」を研究対象とした。虫こぶの中では、数百匹から時には2,000匹以上のモンゼンイスアブラムシが集団生活する。虫こぶが大きくなって木質化し、壁に穴が開いて、翅(はね)をもつ成虫が飛び立つまで、少なくとも2年以上にわたり外部の環境から隔離される。

 モンゼンイスアブラムシの虫こぶの中を調べたところ、死骸や脱皮殻、分泌ワックスなどの固形老廃物はあったが、甘露の蓄積はなかった。甘露が虫こぶの内壁の組織に吸収されるか確かめるため、虫こぶに小さな穴を開けて蒸留水やショ糖水(濃度2%・4%・8%)をそれぞれ1ミリリットル注入し、穴をふさいで20時間後に観察すると、蒸留水は完全になくなっていた。ショ糖水も吸収されたが、濃度が高くなるにしたがい吸収率は下がった。モンゼンイスアブラムシの甘露の糖濃度は0.5%以下であり、虫こぶに十分吸収されるレベルだった。また、染色の水溶液でも試したところ、虫こぶの内壁に吸収経路が観察された。

 同様な吸水実験を、「ハクウンボクハナフシアブラムシ」が作る開放型の虫こぶでも行ったが、水はまったく吸収されなかった。その開放型の虫こぶの内壁は厚いワックス層に覆われて、水をはじく性質(撥水性)を示した。一方、完全閉鎖型のモンゼンイスアブラムシの虫こぶ内壁表層はスポンジ状の組織構造をしていて、水になじむ性質(親水性)を示した。虫こぶ内壁の構造の違いが、吸水性の有無に関係しているようだという。

 研究成果は、英国の学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)」(13日、オンライン版)に掲載された。

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