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刷り込み学習に甲状腺ホルモンが関与

2012.10.02

 生まれたばかりの鳥のひなが親の姿を記憶して追従するようになる「刷り込み学習」(インプリンティング)は、甲状腺ホルモンが脳内に流入することで引き起こされ、学習時期を逸しても同ホルモンの投与によって学習のやり直しができることが、帝京大学薬学部の本間光一教授や北海道大学大学院理学研究院の松島俊也教授らの共同研究で分かった。ヒトにおいても言語の習得や絶対音感、社会性やストレスへの対応能力の獲得など、幼若期に習得しておくべき学習があることから、これらの再学習に効果的な薬の開発といった新しい研究分野を開拓するきっかけとなることが期待されるという。

 ある種の学習には、その時期にしか習得できない「臨界期」あるいは「感受性期」がある。カモやニワトリなどの離巣性の鳥類のひなが親を見て記憶する「刷り込み」(心理学用語では「刻印付け」)は、ふ化後2、3日が学習臨界期で、それ以降は親を記憶できない。また学習臨界期に親以外のものを見ると、それが人工物であっても親と思い込んでしまう。刷り込みの発見は1872年に英国の生物学者、ダグラス・スポルディング(1841-1877年)によってなされ、オーストリアの動物行動学者、コンラート・ローレンツ(1903-1989年、1973年ノーベル医学生理学賞受賞)が研究を体系化したが、臨界期を決定するメカニズムや因子の存在などはこれまで不明だった。

 研究チームは、ニワトリのヒヨコに、親の代わりとなるおもちゃのブロックを見させる刷り込みの実験をした。臨界期内に刷り込み学習が始まると、脳内の血管に甲状腺ホルモン(トリヨードチロニン)が急速に流入し、神経細胞の受容体に結合し、20-30分の短時間に生化学反応が引き起こされた。ふ化後にブロックを見せず、刷り込みが起きないようにしたヒヨコでも、甲状腺ホルモンを注射すると刷り込み学習が可能となった。色を識別する学習でも、甲状腺ホルモンを注射したヒヨコは、注射しなかったヒヨコよりも能力が高かったという。

 研究論文“Thyroid hormone determines the start of the sensitive period of imprinting and primes later learning.”は英誌「Nature Communications」(9月25日号)に発表された。

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