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福島原発事故についての政府事故調・最終報告書の要旨〈その7〉

2012.09.18

第V章 事故の未然防止、被害の拡大防止に関連して検討する必要がある事項

《日本海溝沿いの地震津波に関する科学的知見など》

東北地方太平洋沖地震発生以前の日本海溝沿いの地震津波に関する地震学者の考え方

  • 北海道・東北地方太平洋沿岸に影響を与え得る津波については、関係行政機関において幾つかの評価がなされており、地震調査研究推進本部では、2002年7 月に「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」を、中央防災会議(中防)では、2006年に「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会報告」を取りまとめていた。
  • 長期評価では、三陸沖北部から房総沖の海溝寄り領域におけるプレート間大地震(津波地震)について、福島県沖合のように過去に津波地震が発生した記録がない領域も含め、当該領域内の「どこでも発生する可能性がある」としたのに対し、中防専門調査会報告では、そのような津波地震を防災対策の検討対象から除外した。
  • 当委員会において、複数の地震学者に東北太平洋沖地震発生以前の地震・津波に関する地震学者の考え方などについてヒアリングした結果、日本海溝沿いの領域全般について、M9クラスの地震が起こり得るとは考えられていなかった。
  • M9クラスの超巨大地震は、チリ沖やアラスカ沖のようにプレートが若くて密度がそれほど大きくなく、海溝に沈み始めたばかりで浅い角度で沈み込んでいるところで発生するという「比較沈み込み学」仮説に、多くの地震学者が賛同していた。と同時に、地震は過去に発生したものが繰り返すものであり、「過去に発生しなかった地震は将来も起こらない」とする考え方が一般的であった。
  • 2008年ごろからは、「貞観地震」の波源モデルが徐々に明らかにされつつあったが、依然として、福島県沿岸に貞観地震によりどの程度の津波が来襲し、また、地震波源がどこまでの広がりを持つものであったかは必ずしも明確でなかった。
  • 沖合の海溝寄りの領域で発生する津波地震については、長期評価のようにM8クラスの地震が三陸沖から房総沖にかけての「どこでも起こり得る」とする考えと、従前どおり「特定領域でしか起こらない」とする考えの両論があった。
  • 今回の東北地方太平洋沖地震津波は、日本海溝寄りの津波地震であった「明治三陸地震タイプの津波」がより南の領域で起こったものと、より陸寄りの領域での「貞観地震タイプの津波」という、これまで別々に考えられてきた2つの地震津波の同時発生であったとするのが現時点での解釈の1つとされている。しかしながら、両者の同時発生は地震学界では想定できていなかった。
  • 海溝寄りの領域での津波地震と陸寄りの領域での地震が同時に発生したと考えられるものは、東北地方太平洋沖地震が初の事例であった。

中防専門調査会報告において長期評価の提唱する津波地震が防災対策の検討対象から除外された経緯

  • 長期評価では、三陸沖北部から房総沖の海溝寄り領域におけるプレート間大地震(津波地震)について、福島県沖合のように過去に津波地震が発生した記録がない領域も含め、当該領域内のどこでも発生する可能性があるとしたのに対し、中防専門調査会報告では、そのような地震津波を防災対策の検討対象から除外した。
  • 中央防災会議では、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会を2003年10月から06年1月まで17回開催し報告書をまとめているが、防災対策の検討対象とする地震については、第2回専門調査会において事務局より案が提示され、最終的に確定したのは第10回の会合であった。
  • 第2回会合で事務局から提示された案は、千島海溝から日本海溝に沿う領域を(1)過去に大きな地震が繰り返し発生している領域、(2)大きな地震がまれに発生する領域、(3)大きな地震の発生事例記録のない領域に分け、(1)および(2)の領域で発生する地震は防災対策の検討対象とするが、(3)については「大地震発生の過去事例がなく、近い将来地震発生のおそれがあるとは肯定されないが、大地震発生の可能性を否定できない領域については、今後の調査研究の成果を踏まえて、必要な時点で適宜追加と見直しを行うこととする」と先送りにするものであった。
  • 第2回会合では、長期評価においては、三陸沖北部から房総沖の海溝寄り領域では、過去に地震発生の記録のない領域も含め、どこでも津波地震が発生する可能性があるとされているという指摘がなされ、地震空白域という考え方を踏まえ先手を取って防災対策を行うという観点に立てば、(3)の領域で発生する地震についても防災対象地震に加えるべきとの意見が相次いだ。
  • これらの意見を踏まえ、事務局では、防災対象地震の考え方を再検討することとした。
  • 最終的な中防専門調査会報告では、防災対象地震の選定は過去に実際に発生した地震に基づき検討することを基本とするとともに、地震像が明らかになっておらず津波の再現モデルが構築できなかった地震については、津波堆積物などの調査の進展を待って取扱いを検討することとされた。
  • このような考えを取った理由について、中央防災会議事務局は、一連の検討により防災対象とする地域が決まった後は防災計画の策定等が法律上義務化されていくが、そのような行政行為を行うには、相当の説得力を持つ根拠が必要であったためだとしている。

長期評価の改訂に当たり東京電力より要請された表現ぶりの見直しへの対応

  • 長期評価改訂に際し東京電力は、2011年3月3日文部科学省に対し、本文中の記述について「貞観三陸沖地震の震源はまだ特定できていないと読めるようにしてほしい、貞観三陸沖地震が繰り返し発生しているかのように読めるので表現を工夫してほしい」などと要請した。
  • 文部科学省は、誤解を与える可能性のある表現については分かりやすくする観点から修正するよう検討したい旨回答した。これは、科学的知見に基づく事実関係の変更はできないが、誤解を与える可能性のある表現については、より分かりやすくする観点から表現方法を工夫すべきと推本事務局として判断したためであった。
  • 同日時点の文案は、東北地方太平洋沖地震の発生を踏まえて全面的に書き改められ同年11月に公表されたが、貞観地震の事実関係については平均発生間隔600年程度で繰り返し発生する東北地方太平洋沖型の地震として明記されており、東京電力の要請が反映されることなく記述は改訂されている。

《シビアアクシデントに対する対策の在り方》

 地震などの外的事象を対象としたアクシデントマネジメント(AM)の導入を行うに至らなかった背景、シビアアクシデント(SA)対策の対象として取り上げられる「全交流電源喪失事象」(SBO)に関して、東京電力が福島第一原発の事故時運転操作手順書(事象ベース)においてSBO時の耐力を8時間などとしていた経緯、米国の原子力規制委員会(NRC)におけるセキュリティ対策としてのいわゆる「B.5.b」について述べる。

地震を起因とした確率論的安全評価(PSA)の技術水準

  • 日本において、地震等の外的事象に対するPSAは、手法が確立されていなかった。
  • 安全委員会の共通問題懇談会においては、その下に「PSA検討ワーキンググループ」を設置し、当時のPSAの方法論に対するレビューを行い、SA対策としての格納容器対策に関して検討した。
  • 同懇談会及び同ワーキンググループにおいては、地震などの外的事象PSA に関する知見として、NRCの「Severe Accident Risks: An Assessment for Five U.S. Nuclear Power Plants(NUREG-1150)」(1990年12月)が取り上げられた。
  • NUREG-1150 においては、米国の5つのプラントについて確率論的リスク評価(PRA)が実施されており、そのうち2つのプラントについては、外的事象について「炉心損傷頻度」(CDF)の評価が行われ、広い範囲の外的事象、例えば、落雷、航空機衝突、竜巻、火山活動が検討された結果、地震と火災については、CDF への影響が大きい可能性があることが判明し、詳細な分析が行われている。
  • 「PSA検討ワーキンググループ」の主査であった、東京大学工学部教授の近藤駿介氏(現在の原子力委員会委員長)は、当委員会のヒアリングにおいて、「NUREG-1150 には安全停止地震(SSE)の4倍くらいで電源などが故障するとあるが、このクリフエッジの内側では、地震時であろうとも内部事象PSA によるAM評価の結果は使えると考えた」旨述べている。
  • 2000年9月、安全委員会は、安全目標に関する調査審議を行うため、「安全目標専門部会」を設置し、確率論的安全評価(PSA)などを活用した定量的な目標を含めた安全目標に関して、必要な事項について調査審議を行うこととした。
  • 当時の安全目標専門部会部会長は近藤委員長だった。
  • 安全目標専門部会は、2003年12月に「安全目標に関する調査審議状況の中間とりまとめ」を取りまとめ、地震および津波・洪水や航空機落下などの外的事象も検討対象とし、安全目標案として「原子力利用に伴う健康リスクを10-6/年程度」とした。
  • 近藤委員長は、当委員会のヒアリングにおいて、安全目標専門部会における議論について、「(原子力は)安全が一丁目一番地であり、本来、安全であれば良いわけである。しかし、置かれた状況から安全目標などの一丁目一番地の議論に、余り力が入らず、説明とか安心に関心がいったのかもしれない」「私は、安全目標こそ、一丁目一番地と思っていて、安全目標専門部会で議論をした」「(03年12月の)中間とりまとめの後、議論が途中でどこかに消えてしまった。安全委員会での、そういうものの考え方がよく分からない。地震もそうだが、何であっても、原子力安全は、最初から最後まで“How safe is safe enough?”(どの程度安全であれば、十分に安全と言えるのか)を考えることが大事だと言われてきた。そのコンセプトがどうして、安全委員会でプライオリティが上がってこなかったのかが分からない」旨述べている。
  • その後、日本原子力学会標準委員会においては、04年5月に開催された発電炉専門部会において、地震PSA分科会が設置され、地震PSAに関する学協会規格の策定の検討が開始されている。
  • 07年3月には、日本原子力学会標準委員会において、「原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価実施基準:2007 (AESJ-SC-P006:2007)」が発行された。

地震などの外的事象を対象としたアクシデントマネジメント(AM)の導入を行うに至らなかった背景など

 「定期安全レビュー(PSR)の法制化」

  • 保安院は、02年8月に公表した東京電力による自主点検記録の不正問題などを踏まえ、「定期安全レビュー」(PSR)についての位置付けを保安規定の要求事項とすることとし、03年9月に、実用発電用原子炉の設置、運転などに関する規則を改正して、同年10月からPSRを法令上の義務とした。
  • 保安院は、平成14 年8 月29 日の東京電力による自主点検記録の不正問題等の公表後直ちに、原子力安全・保安部会に、原子力安全規制法制検討小委員会を立ち上げ、近藤委員長を同小委員会の委員長として、同年9月13日には第1回を開催して、再発防止対策の検討を行った。
  • 原子力発電施設および核燃料サイクル施設に係る検査制度の在り方に関する審議を行っていた原子力安全・保安部会の検査の在り方に関する検討会において、法制検討小委中間報告を踏まえ、PSRの法制化についての具体的な検討が行われた。保安院はこれらを踏まえ、PSRを法令上の義務としたが、保安院は、この改正を機に、定期安全レビュー(PSR)における確率論的安全評価(PSA)およびアクシデントマネジメント(AM)に係る報告書の提出を受けず、専門家の意見を聴取した確認・評価を行わなくなった。
  • なお、事業者はその後、保安検査におけるPSR全てにおいて、任意事項であった運転時および停止時の内的事象PSAを実施し、結果の概要を公表している。
  • 保安院としてPSRにおいてPSAの評価を行わなくなったことについて、保安院関係者は、当委員会のヒアリングにおいて「確かに、10年ごとに国がPSRの中で(PSAの中身を)直接見る機会はなくなる。だから、そういう意味で気にした」「ここで評価が直接できなくなるのは、認識していたが、今回は、品質保証の中で、法令上位置付けを明確化して、PSR全体をきちんとやってもらうのが、実効的だろうと思った」旨の供述をしている。
  • 原子力安全規制法制検討小委員会の委員長で、検査の在り方に関する検討会の委員であった近藤委員長は、当委員会のヒアリングにおいて「(2002年の)東京電力の溶接から始まった記録改ざんの話は、規制のcredibility(信頼性)をどうやって確保するか、問題のあった部分をどうやってきちんと直していくかと、とにかく、制度を作ったり、溶接の記録を全部見直したり、現場へ行って実際の検査に付き合ったりと、保安院の方は、そんなことばかりで、優先順位がPSRにおけるPSAになかった」「しかも、その議論の結果として、PSRのPSAについての評価を行う場所を、専門家の意見を聴取するものから原子力保安検査官が確認するということに変えてしまった」旨述べている。
  • PSRの法制化の際に、PSAについては、従前どおり事業者が任意に行う要求事項とされものの、事業者への要請において停止時PSAが追加された一方で、地震PSAが追加されなかった。
  • 当委員会による保安院関係者のヒアリングによると、「地震PSAについては、この時点ではまだ、02年に追加した停止時PSAのように手順などが取りまとめられたというような段階に至っていなかったかと記憶する。それ以後の課題ではないかと思っていた」旨の供述が得られている。
  • 保安院は、法制化されたPSRに係る保安検査を実施するに当たり、その実施方法の実行可能性等を考察するため、05年3月、中部電力の浜岡原子力発電所における保安検査を「モデル保安検査」として実施した。
  • 保安検査官によるPSRに係る保安検査は、安全への取組の質を高めるという観点から、その実施体制、実施手順などプロセスを明確にし、PSRを計画し、実施したことを確認するというものであり、外的事象PSAについての技術的な水準の進歩を勘案し、東京電力に対してAMの内容改善を直接促す契機とはならず、東京電力は、自主的取組として、設計基準事象を超える地震などの外的事象に対するAMの検討を行うことはなかった。

 「北海道電力泊原発3号機におけるAMの実施方針の確認」

  • 北海道電力は、03年に設置認可された泊原発3号機について、安全委員会の決定にのっとり、保安院に「泊発電所3号炉のアクシデントマネジメント検討報告書」を提出している。
  • 保安院は、泊原発3号機のアクシデントマネジメント(AM)策に係る確率論的安全評価(PSA)を原子力安全基盤機構(JNES)に指示して評価させ、北海道電力が実施した泊原発3号炉のAM策に係るPSAと比較分析することにより、電気事業者が実施した泊原発3号機のAM策の有効性評価が妥当であることを確認するとともに、08年10月6日の安全委員会会議に報告した。
  • 安全委員会は「泊発電所3号炉におけるAMの検討に際して、これまでの検討成果やAMに関する国際的な議論などを踏まえ、将来に向けての課題の抽出や提言」を行うために、「泊原発3号機AM検討会」を開催することとした。
  • 08年10月29日の同検討会においては、鈴木篤之原子力安全委員会委員長以下5 人の委員全員が参加するとともに、外部有識者4人が参加した。同検討会では、「AMについて、燃料装荷前に報告を受け、安全委員会で検討するのは初めてのことであり、改善する余地、今後、取り込むべき点などを指摘していただきたい」旨の発言もなされ、事務局より、従来のAM整備の経緯、従来のAM検討資料の紹介、国際原子力機関(IAEA)の「Safety Standards Severe Accident Management Programmes for Nuclear Power Plants (DS385 Draft 2 Date:2007-05-14)」における視点として、「外部事象を考慮すべき」「外部事象のAM資源(水源等)に対する影響を考慮すべき」「外部および内部の人為事象を考慮すべき」が紹介されている。
  • 同検討会は1回のみ開催され、その後のコメント回答を踏まえて、09年1月19日の安全委員会会議において、「北海道電力株式会社泊発電所3号炉におけるアクシデントマネジメントの実施方針について」が決定された。
  • 同会議では、事務局が外部有識者の意見を取りまとめた「アクシデントマネジメントの整備に関する今後の課題〔泊発電所3号炉のアクシデントマネジメントの検討に参加された外部有識者のご意見〕」(以下「泊3号機意見」)が報告された。
  • 泊3号機意見においては、「AMの規制上の位置付けの再検討」「AMの有効性確認に係る信頼性向上」「外的事象の考慮」などの6点の課題が示されている。
  • 「AMの有効性確認に係る信頼性向上」としては、「国において、さらに、AM 策の策定や評価方法に関する基本的な考え方を示すために、指針類を整備することが重要と考える」とされている。
  • 「外的事象の考慮」としては、「これまで電力事業者により検討されてきたAMは、内的事象に対応するものに限られていた。計画されているAMは外的事象に対しても有効である可能性はあるものの、外的事象特有の考慮事項も存在する。現在、外的事象、特に巨大地震対応がPSA評価も含め鋭意進められているところであり、将来的な課題としては、大地震など外的事象による影響も考慮したAMの検討が必要であろう。また、地震に加えて、火災および溢水のPSA を実施することは世界のすう勢であり、このようなPSAを実施し、合理的な追加対策(AM)があれば行うことを奨励すべきである。さらに、その次には、地震、火災、停止時などの複合的な条件を含むPSAを実施し、定期点検実施手順や許容待機除外時間(AOT)設定などの運転管理やAMの整備に役立てていくことも奨励されるべきである」とされている。
  • しかし、安全委員会会議においては、AMの規制上の位置付け、AMの指針、外的事象に対するAMについての発言はなかった。
  • 鈴木委員長も「今回、(中略)初めて新設炉に関するAMの実施方針についての保安院の評価結果が出てきて、それに対して安全委員会としてこのような意見をまとめたところで、1つのこれを契機として、今後のAMの在り方、規制上の位置付けなどについて、よく考えたらどうかという御示唆かと思います。我々としてもこのようなお考えを、今後の検討に大いに参考にさせていただけたらと思います」旨述べるにとどまった。
  • そして、この後、安全委員会がAMの在り方について、泊原発3号機AM検討会を契機として検討した形跡は確認できていない。
  • 泊原発3号機AM検討会に外部有識者として参加した藤城俊夫・財団法人高度情報科学技術研究機構参与は、当委員会のヒアリングにおいて、「それまでのAMは内的事象を想定しているが、それだけで十分なのか。特に地震が見直されているところでもあり、それを十分反映したことにするべきではないかという話をした。保安院の担当者は、それは分かっている、でも課題は大きいから長期的に考えるという返答だった」旨述べている。
  • 鈴木委員長は、当委員会のヒアリングにおいて、安全委員会でAMについての議論を行っていない理由について、「それは、主たる論点が、今後新設炉に関して追加的に安全裕度を増すための施設をどのように審査したらよいのかということだったが、当時の予定では新設炉の計画はなく、耐震バックチェックの方に追われてもいたので、基本的な考え方に入れようという話にまでは至らなかったためである」旨述べている。
  • なお、鈴木委員長は、日本のAMについて、「国際的には規制とする、例えばINSAG(IAEAの国際原子力安全グループ)から示されている古典的なAMのような構造にすべきだとずっと前から言われているが、そういうのをただそのとおり導入すればいいかというと、各国そのとおりにはやっていない。それぞれの国の事情、社会的な仕組みの問題があり、例えばAMを日本で本格的にやろうとすると、途方もない作業になり、収拾がつかない」「AMにしても津波にしても、地元優先という日本的な現実がどうしても存在する。最初に地元に原子力発電所を建てたいと説明してから地元が了解するまで10年は掛かる。しかし、その了解されるまでの間にも技術が進歩し、それを反映しようとすると、最初に言ったのと話が違うということになり変えられない。だから、本当は建設時点での最新技術を使いたいのに、日本では必ずしもそのように出来ない。外国だと、規制の在り方も違い、実際の設計はその時その時にやればいいようになっているものもある。そのように仕組みが違うので、AMについて国際的なやり方をそのまま日本が導入するのが遅れたのはそのとおりである」旨述べている。

 「IAEAの安全指針NS-G-2.15「原子力発電所のシビアアクシデントマネジメント計画」」

  • 2009年に発行された国際原子力機関(IAEA)の安全指針NS-G-2.15「原子力発電所のシビアアクシデントマネジメント計画」(策定前は安全基準案DS385)においては、停止時および低出力時を含む内的事象並びに外的事象の全事象を含み、また、使用済燃料プールにおける燃料損傷事故に対するAM整備を求めている。
  • DS385については、07年2月にIAEAが原子力安全基準委員会(NUSSC)委員に提示した。我が国では、同年3月、国内検討会である、第4回IAEA国際安全基準検討会を開催し、同年4月のIAEAの第23回NUSSC会合に向けた対処方針案およびコメント案の検討を行っている。
  • その会議資料において、国内のAM整備との相違点として「外的事象、火災、地震、溢水その他自然災害を対象に含めている(国内では出力運転時の内的事象のみ)」との記載がある。
  • 第23回NUSSC会合においては、我が国からは、修正を求めるコメントを提出しているものの、前記相違点に係るコメントは含まれてはいなかった。
  • その後、IAEAからDS385の修正案文が示され、08年4月に開催された第6回IAEA国際安全基準検討会において、翌5月の第25回NUSSC会合に向けた対処方針案およびコメント案の検討を行っている。
  • その会議資料においては、DS385に、停止時や使用済燃料ピットにおける燃料損傷事故に対するAM整備およびその他の放射性物質大量放出事象、例えば、廃棄物処理系からの大量放出に対するAMの検討が求められていること、並びに、外的事象時の緩和策に必要な水源などの確保について記載されていることが言及されている。
  • 第25回NUSSC会合においては、我が国からは、技術的修正を求めるコメントを提出しているものの、前記第6回IAEA国際安全基準検討会の会議資料における言及内容に係るコメントは含まれてはいなかった。
  • その後、各国からのコメントを踏まえ、IAEAから再度、DS385の修正案文が示された。08年8月に、国内検討会である「CSS24会合対応検討会」が開催され、IAEAの第24回CSS(安全基準委員会)会合に向けた対処方針案およびコメント案の検討が行われた。その会合において、DS385について技術的修正を求めるコメントを提出するほかは承認してよいとされた。
  • DS385は08年9月の第24回CSS会合において承認された。

 「最近の情勢」

  • 保安院は、2010年2月に、原子力安全・保安部会基本政策小委員会において「原子力安全規制に関する課題の整理」を取りまとめ、一部の国では、新規設計炉に対しSA対応を規制上の要件にする方向であり、規制制度での位置付けや法制上の取扱いを検討することが適当とした。
  • 相前後して、保安院および原子力安全基盤機構(JNES)は、SA対策に関する内部検討として、「シビアアクシデント対応検討会」を09年12月に設置し、諸外国のSAの規制動向やIAEA基準を確認するとともに、JNESにおけるSA関連の安全研究成果から、現状のSAに対する設備能力について情報を収集し、これらを踏まえて、SA対策に係る規制要件化についての検討を行っていた。
  • 2010年4月には、その検討を踏まえて、「我が国のシビアアクシデント対応の規制上の取扱いについて-シビアアクシデント対応検討会(NISA, JNES)の中間とりまとめ-」(※NISAは保安院の英略称)を取りまとめており、(1)規制の方針、(2)SA規制の要求レベル、(3)バックフィットに係る法的整理について検討がなされた。
  • その後、保安院は、院内のSA検討チームを中心に、安全委員会や電気事業連合会との意見交換、プラントメーカーからのヒアリングなどを行い、SA対策に係る技術的・制度的な具体的検討を行っていた。

※東日本大震災発生前において、SA対応検討チームでは、2011年3月18日に「シビアアクシデント対応規制検討WG」を設置して公開で検討を行い、同年夏から秋ごろに中間的な取りまとめを行い、12年夏ごろに技術的な規制内容の取りまとめを行う予定としていた。安全委員会においても、2011年3月16日に、原子力安全シンポジウム「原子力安全委員会の当面の施策の基本方針について-合理的に達成可能な最高の安全水準を目指して-」を開催し、リスク情報活用における基本的な課題として、SAを取り上げる予定としていた。

  • 寺坂信昭原子力安全・保安院長は、当委員会のヒアリングにおいて、「シビアアクシデントの対策の地元への説明はつらい。絶対安全という言葉はある種の禁句で絶対に使えないのだが、安全か安全でないかといえば、当然安全だと判断をしてきている。そこに確率論的安全評価(PSA)とか定期安全レビュー(PSR)のような確率的な評価で、いくばくかのリスクが存在するという説明は、特に地元との関係では非常に苦しい。原子力に理解のある方からも、一所懸命、原子力の安全はしっかり進めていくという説明だったのに、なぜそのような問題点が残っているかのようなことを言うのか、という批判を受ける。まして、批判的な人は当然、話が違う、安全と言っていたのに安全ではない要素があるなら、そこの対策はどうするのか、という議論になってしまう。その場合は、このような理由で安全だと説明するが、腹を割った議論には、ずっとならないままだった。その後、例えば耐震指針でも残余のリスクや確率論の話などがようやくやれる空気になり始めたという感じが出てきたが、まだ正面から議論するということは難しいと思う。また、確率の議論はなかなか社会的には難しい。まさに今回の事故がそうだが、確率10-7といっても、一般的に見れば感覚的に単に起こるか起こらないかという、確率1/2 である。確率10-7という数字をどう活用し、どうワークさせていくのかは、ようやく議論が可能になりかかってきた時期だと思うが、いずれにしてもそのような様々な角度からの議論は、現実的には十分ないままに、進んできた」旨述べている。

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