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世界最深エビから植物分解の新酵素

2012.08.21

 マリアナ海溝チャレンジャー海淵の深さ約10,900メートルの世界最深部に生息するヨコエビ類の仲間「カイコウオオソコエビ」が、木や紙などの繊維質を効率よく分解してブドウ糖(グルコース)を生産する新しい酵素を持っていることを、海洋研究開発機構(海洋・極限環境生物圏領域)の小林英城(ひでき)主任研究員らのグループが発見した。このエビたちは深海の流木や枯葉などの植物片を食べているものと推測され、さらに人間がこの酵素を利用すれば、トウモロコシなどの穀類を材料とせず、木材や廃紙などからグルコースを生産することも可能になるという。

 研究グループは、同機構が2009年に採取したカイコウオオソコエビが、“超深海”という貧栄養環境下で生きるためにどんな食性をもつのか、タンパク質や脂質、多糖類などに対する分解活性を調べた。その結果、カイコウオオソコエビは、植物の細胞壁に含まれるセルロースを分解する「セルラーゼ」、でんぷん質を分解する「アミラーゼ」、植物のセルロース以外の多糖類を分解する「マンナナーゼ」と「キシラナーゼ」といった4つの消化酵素を持ち、それらの反応生産物であるグルコースやセロビオースなどを大量に体内に含有していた。

 今回の研究で検出および精製にも成功したセルラーゼは、これまでに世界でも報告のない新規の酵素で、分子量約59,000、反応至適温度25-35℃、反応至適pHは5.6。おが屑(くず)やコピー用紙などを分解して直接グルコースに転換する、極めて高い生産効率を持つことが分かった。この新規酵素を木材などと反応させることによって、エタノールの原料であるグルコースを容易に得ることができることから、「再生エネルギーとして期待されるバイオエタノールの生産にも寄与できる」という。

 研究成果は2012年度科学研究費補助金によって得られた。論文は米オンライン科学誌「プロスワン(PLOS ONE)」に掲載された。

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