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アスベストによる発がんに鉄の蓄積が関連

2012.08.06

 アスベスト(石綿)の吸入で悪性中皮腫が発症する過程で、鉄の異常な蓄積が細胞組織で起きていることを、名古屋大学大学院医学系研究科の豊國伸哉教授と蒋麗(しょう・れい)研究員らの研究グループがラットを使った実験で突き止めた。アスベストに暴露された人への発がん予防法などの開発が期待されるという。研究成果は、英国、アイルランドの病理学会誌「The Journal of Pathology」(オンライン版、3日付)に発表された。

 アスベストは、ケイ酸塩を主体とする繊維状の鉱石で、耐久性や耐腐食、耐熱性に優れた安価な材料として、世界中でいろいろな工業製品や建築材料などに利用され、かつては石綿金網として学校の理科の実験などでも使われていた。ところが1970年代ごろから、アスベスト繊維の吸入で肺がんや悪性中皮腫が引き起こされることが分かった。吸入から30-40年後に発症し、使用現場での禁止措置も徹底しなかったことから、日本での中皮腫患者は増え続けるとみられる。そうした治療や発症予防の確立のためにも、吸入から発症に至るメカニズムの解明が急がれていた。

 豊國教授らは、「白石綿(クリソタイル)」「青石綿(クロシドライト)」「茶石綿(アモサイト)という3種類のアスベストを用い、ラットの腹部に投与した。その結果、97匹のラットすべてに悪性中皮腫が発生した。白石綿による発生が最も早く(50%発生、1年3カ月)、青石綿と茶石綿による発生はともに白石綿よりも5カ月遅れだった。

 投与した部位の細胞組織や周辺臓器に含まれる鉄の量を調べたところ、どの種類のアスベストも健康な場合に比べて3-5倍も多かった。鉄は過剰になると、活性酸素を発生する化学反応の触媒として作用することが知られる。その触媒作用を増強する薬剤をラットに投与したところ、どの種類のアスベストでも、悪性中皮腫の発生が有意に早くなった。発生した中皮腫の遺伝子を解析したところ、ある種のがん抑制遺伝子が欠損していた。この欠損はヒトの中皮種でも高頻度でみられ、過剰鉄による発がんとの関連がこれまでの研究で報告されているという。

 白石綿は、結晶構造に約30%の鉄を含む青石綿および茶石綿とは異なり、鉄を含まないので発がん性が低いとして、今なお日本以外のアジア諸国やカナダ、ロシア、ブラジルなどで使われている。今回の研究で、白石綿が体内の赤血球を破壊(溶血)して、ヘモグロビンの鉄を集めていることなど、「すべてのアスベストの発がん過程において、鉄過剰病態が重要であることが明らかになった」としている。

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