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「水素ぜい化」定説見直し迫る新発見

2010.07.02

 鋼に水素が入り込むと強度が低下するという長年信じられていた定説「水素ぜい化」の見直しを迫る新発見が、産業技術総合研究所の研究グループによってもたらされた。あまりに意外な発見のため、論文を受け取った米学術誌の審査委員がすぐに納得せず、1年間の議論の末ようやく掲載が決まった、という。

 村上敬宜・産業技術総合研究所水素材料先端科学研究センター長(九州大学理事・副学長)らのグループは、水素をステンレス鋼中に侵入させ、繰り返し力を与えた場合の強度変化を調べた。その結果、一定量の水素はこれまで言われていたように強度低下をもたらすことが再確認されたが、極めて多量の水素を侵入させると逆に強度が著しく向上することが分かった。

 水素は低炭素社会の主要なエネルギーになると期待されているが、水素エネルギー社会を実現するには、水素ぜい化の現象を解明し、水素ステーションや水素燃料電池車など水素に対して安全なインフラと機器の開発が不可欠とされている。しかし、水素を材料中に侵入させないようにするのは非常に難しいため、ある程度の水素が侵入することを想定して安全を確保する研究が各国で進められている。

 今回の発見で水素は悪い影響を与えるだけでなく量によっては強度特性を著しく向上させることが明らかになったことから、水素に強い部品開発への応用を研究グループは期待している。

 この成果は、新エネルギー・産業技術総合開発機構委託事業「水素先端科学基礎研究事業(2006-12年度)」によって得られた。

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