広く知りたい - 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」 https://scienceportal.jst.go.jp Thu, 03 Jul 2025 07:53:34 +0000 ja hourly 1 さよならH2Aロケット 最終50号機が「いぶきGW」打ち上げに成功 https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20250703_g01/ Thu, 03 Jul 2025 07:51:24 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=gateway&p=54474  「困難を乗り越え、最後の打ち上げはきれいだった」――。大型ロケット「H2A」最終50号機が、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。政府の温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶきGW」を所定の軌道に投入し、打ち上げは成功した。2001年から運用されたH2Aは、わが国の大型機で初めて50回もの打ち上げを重ねた。うち失敗は03年の6号機のみ。技術の信頼性を高めた名機が有終の美を飾り、新エンジンを搭載し効率化を進めた後継の「H3」に道を譲った。

いぶきGWを搭載し打ち上げられるH2Aロケット50号機=先月29日、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センター(三菱重工業提供)
いぶきGWを搭載し打ち上げられるH2Aロケット50号機=先月29日、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センター(三菱重工業提供)

「50番目の初号機」確実、丁寧な作業実る

 50号機は、先月29日午前1時33分3秒に打ち上げられた。約7分後に1段、2段機体を分離。2段エンジンの燃焼を正常に行った後、打ち上げの約16分後、高度約671キロでいぶきGWを、地球を南北に回る太陽同期準回帰軌道に投入した。

 打ち上げは昨年度に予定されたが、いぶきGWの一部の海外製部品の修繕が必要となり、開発が遅れた。いったん先月24日に予定されたものの、H2Aの点検中に2段機体の電力分配装置の不良が発覚し交換したため、さらに延期していた。

打ち上げに成功し、沸く管制室=先月29日、種子島宇宙センター(JAXA提供)
打ち上げに成功し、沸く管制室=先月29日、種子島宇宙センター(JAXA提供)

 H2Aの最後とあって、打ち上げ後の会見で関係者はそれぞれに、思いの丈を口にした。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山川宏理事長は「開発したJAXAとして、非常に感慨深い。初号機を実現させた諸先輩、着実な運用と高い信頼性を実現した三菱重工業をはじめ、携わった全ての皆様の努力と挑戦の賜物(たまもの)だ。技術と経験をH3に受け継ぎ、日本の宇宙輸送システムの技術向上を果たしていく」と述べた。

 打ち上げを執行した三菱重工業の五十嵐巖(いわお)宇宙事業部長は「星空の下、きれいな打ち上げだった。これまで一つ一つの打ち上げが安定して見えたかもしれないが、(H2Aは)いろいろな困難を乗り越えてきた。尽力、応援してくださった皆様に感謝している」と語り、安堵(あんど)の表情を見せた。

 「会社生活の全てをH2Aに費やしてきた」という同社の鈴木啓司打上執行責任者は「絶対に失敗できないプレッシャーは毎回変わらないが正直、今まで以上に緊張した。打ち上げの数日前、作業者の朝礼で『50番目の初号機のつもりで取り組もう』と言葉をかけた。今までやってきたことを確実、丁寧にやっていこうと考えた」と振り返った。

 H2Aの成功率は98%となった。国際宇宙ステーション(ISS)の物資補給機「こうのとり」を搭載し全9機が成功した強化型の「H2B」と、初号機が失敗し2~5号機が成功したH3を合わせ、H2A以降の国産大型機の成功率は96.87%となった。

暮らしや環境、安全保障、科学…支えた四半世紀

 H2Aは宇宙開発事業団(現JAXA)が開発した、2段式の液体燃料ロケット。初の純国産大型機「H2」の後継機として2001年に初めて打ち上げた。固体ロケットブースターが2本の標準型と4本の強化型がある。全長53メートル、標準型の重量289トン。打ち上げ能力は2段の性能を高めた高度化機体で最大4.8トン(静止遷移軌道、赤道付近で打ち上げた場合の換算値)。

 わが国が外国の都合に左右されず、自力で宇宙を利用できることが重要だ。そのための政府の「基幹ロケット」の主力として、H2Aは暮らしに身近な気象衛星や測位衛星、防災や環境、安全保障のための衛星をはじめ、宇宙科学のための小惑星探査機「はやぶさ2」、月面着陸機「スリム」など多彩な衛星、探査機を宇宙に送り出してきた。2007年に打ち上げ業務をJAXAから製造者の三菱重工業に移管し、商業打ち上げ市場に参入。海外の衛星や探査機も5回にわたり打ち上げている。

 後継のH3は、今世紀に入って進んだ衛星の大型化に対応し、コストを低減して市場での国際競争力を高めるといった目的で開発された。2023年3月以降、H2AとH3を併用する移行期間となっていた。

 政府の宇宙基本計画工程表によると、今年度のH3の打ち上げは4回を計画している。こうのとりの後継機「HTV-X」初号機と、日本版GPS(衛星測位)システム「みちびき」を支える準天頂衛星5、7号機を打ち上げる。また、固体ロケットブースターを装備しない最小形態のH3を、初めて打ち上げる。ブースターなしは国産大型機で初めてとなる。

液体燃料ロケット、国産化も苦難重ねる

 ロケットには燃料のタイプによって主に、燃料と酸化剤を混ぜ固めて使う固体燃料ロケットと、液体の燃料と酸化剤をエンジンの燃焼室で反応させる液体燃料ロケットの2方式がある。前者は仕組みがシンプルで運用しやすく、小型衛星の打ち上げに多用される。

 わが国のロケットは旧軍により、兵器開発として開始。敗戦による断絶を経て、固体燃料ロケットについては東京大学の糸川英夫氏が主導し1955年に実験に成功した、長さ23センチの「ペンシルロケット」で再開している。その後、現在のJAXA宇宙科学研究所を中心に技術を磨き、性能を世界最高水準に高めた。現役の基幹ロケットではJAXAの「イプシロン」が固体燃料式で、改良型の「イプシロンS」を開発中だ。

 一方、液体燃料ロケットはエンジンを持ち仕組みが複雑だが、飛行を精密に制御できる。特に軌道投入の正確さが求められる気象衛星や通信衛星など、大型静止衛星の打ち上げには欠かせない。戦後日本の液体燃料ロケットは米国からの技術導入で幕を開け、独自技術と国産化を目指して歩んできた。1969年に発足した宇宙開発事業団は当初、「N1」を米国の「デルタ」ロケットの技術に頼って開発。その後「N2」「H1」を経て94年、H2で純国産化を果たした。

左から固体燃料式のイプシロン、液体燃料式のH2B(ともにJAXA提供)とH3(草下健夫撮影)
左から固体燃料式のイプシロン、液体燃料式のH2B(ともにJAXA提供)とH3(草下健夫撮影)

 だが、そのH2は開発段階からエンジンのトラブルに悩まされ続けた。1998年の5号機は、2段の燃焼時間が短く、衛星を予定の軌道に投入できなかった。翌99年には8号機が、1段エンジンの破損により失敗。7機を打ち上げて退役した(製造は8機で、うち7号機が打ち上げ中止)。H2の反省を生かし、基本設計を保ちつつ信頼性を高め、コストを削減するべく開発されたのがH2Aだ。エンジンは、配管の工夫や溶接部分の削減を進めた。

エンジン設計思想の一大転換点

H2ロケット8号機の失敗後、1段エンジンは海底から引き揚げられ、徹底的に検証された(JAXA提供)
H2ロケット8号機の失敗後、1段エンジンは海底から引き揚げられ、徹底的に検証された(JAXA提供)

 1段エンジンは打ち上げから5分ほどにわたり、機体が地上付近の大きな重力に打ち勝って上昇し続ける推進力の主役を務める。液体燃料ロケットの信頼性や性能、コストを大きく左右する、開発の要だ。

 エンジンには内部のタービンの駆動方式などにより、いくつかのタイプがある。H2とH2A、H2Bの1段エンジンは「2段燃焼式」を採用した。副燃焼室を持ち、燃料の水素を文字通り2段階で燃焼させるもので、燃料を無駄なく使い燃費が良いが、制御が複雑になる。H2の8号機で飛行中に破損したが、その後は安定をみせてきた。H2Aは2003年に6号機のみが失敗したが、原因はエンジンではなく、固体ロケットブースターが分離できなかったことだ。7号機以降、H2Bと合わせ連続53回にわたり打ち上げに成功したことは、国産エンジン技術の成熟を物語る。H2Bは1段エンジンを2基搭載し9回打ち上げたので、2段燃焼エンジンが62基連続成功したとも言える。

 一方、H3の1段エンジンは2段燃焼式ではなく、日本が独自に開発し、H2以降の2段エンジンで実績のある「エキスパンダーブリード式」を採用した。この仕組みでは、ポンプを動かした分の水素は燃焼させず捨てる。そのため燃費が多少落ちるものの、副燃焼室がなくコスト削減と信頼性向上が図れる。開発が難航したものの、2段エンジンの電気系統の問題で打ち上げに失敗した初号機も含め、直近の5号機まで全て正常に機能している。

1段エンジンの仕組み。左の2段燃焼式と右のエキスパンダーブリード式とでは副燃焼室の有無などが異なる。前者は燃料を無駄なく燃焼に使うが、後者の方が仕組みは簡単だ(JAXA、三菱重工業の資料や取材を基に作成)
1段エンジンの仕組み。左の2段燃焼式と右のエキスパンダーブリード式とでは副燃焼室の有無などが異なる。前者は燃料を無駄なく燃焼に使うが、後者の方が仕組みは簡単だ(JAXA、三菱重工業の資料や取材を基に作成)

 三菱重工業の鈴木氏は「2段燃焼エンジンは世界最高水準の効率を目指した。その分、開発は難しかったが、これにより日本はロケットエンジンの開発能力を飛躍的に磨けた。一方、エキスパンダーブリードエンジンは非常にロバスト(頑健)で、万一の故障時にも爆発せず静かに推力を落としていくという、本質的な安全性を持つ。高効率エンジンの開発技術は、2段燃焼エンジンで一定のレベルを獲得できた。次にロケットに必要になるのは“本質安全”だと考えた結果、1段にもエキスパンダーブリードを採用することになった」と説明した。

昨年9月、種子島への出荷目前のH2A最終50号機。1段機体(中央)と、2段と黒い段間部が結合したもの(右奥)。左奥はH3=愛知県飛島村の三菱重工業
昨年9月、種子島への出荷目前のH2A最終50号機。1段機体(中央)と、2段と黒い段間部が結合したもの(右奥)。左奥はH3=愛知県飛島村の三菱重工業

 2段燃焼式の30年に及ぶ実績を経て、エキスパンダーブリード式へ。このバトンタッチは、国産1段エンジンの設計思想の一大転換点となっている。こうしてH3に後を託したH2Aは、日本の技術が歳月をかけて完成度を高めた、疑いなく歴史に残る名機となった。

 最後に1段落だけ、筆者の私的な思いをつづることをお許しいただきたい。2013年の22号機以降、H2Bと合わせて20回ほどの打ち上げを種子島で取材した(いずれも前職の新聞記者として)。「うらやましい」とも言われるが、記者に現地で楽しむ余裕はなく、原稿その他で胃の痛む思いが続いた。そんな中ふと、プレスセンターから3キロ離れた発射地点に立つH2Aに、そっと見守られている気がしたものだ。昨年9月、愛知での機体取材で、出荷目前の50号機に「今までありがとう」と心で声をかけた。「お前、もっと勉強しろよ」と言い返された気がした。

温室効果ガスと水循環捉え、世界に貢献へ

 50号機が打ち上げた、いぶきGWも要注目だ。2012年に打ち上げた水循環変動観測衛星「しずく」と、18年の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき2号」の共通の後継機。それぞれの観測装置を高度化して搭載し、気候変動の把握などに活用する。環境省と国立環境研究所、JAXAが共同開発し、三菱電機が設計、製造した。開発費は打ち上げ費用を含め481億円。いぶきGWは愛称で、正式名は「GOSAT(ゴーサット)-GW」。

 JAXAは今月1日、いぶきGWが運用に必要な態勢を初期に整える「クリティカル運用期間」を無事に終えたことを明らかにした。搭載機器の機能確認を進め、1年後に本格観測に入る。

いぶきGWの想像図(JAXA提供)
いぶきGWの想像図(JAXA提供)

 しずくの後継機として、気候変動に伴う地球の水循環の変化を把握し、予測や対策に役立てる。搭載した観測装置「高性能マイクロ波放射計3」(AMSR3=アムサースリー)は地表や海面、大気などから放射されるマイクロ波から、地球の水の状況を捉える。しずくのAMSR2(ツー)に比べ観測する波長帯が広がり、降雪や上層の水蒸気を捉えられる。データは各国の気象機関の予報にも活用するほか、漁業や船舶の運航などに役立てる。

 いぶき2号の後継としては「温室効果ガス観測センサ3型」(TANSO-3=タンソスリー)を搭載し、大気中の二酸化炭素(CO2)やメタンなどの温室効果ガスを観測する。気候変動問題の国際的枠組み「パリ協定」に基づく各国の排出量の検証のほか、都市圏や発電所といった大規模排出源の監視などに使う。いぶき2号とは別の観測方式を採用することで、CO2やメタンなどをより精細に捉えるほか、新たに二酸化窒素の観測も可能になる。

打ち上げ前の会見で衛星の愛称「いぶきGW」を発表するJAXAの小島寧(やすし)プロジェクトマネージャ(左)=先月27日(オンライン取材画面から)
打ち上げ前の会見で衛星の愛称「いぶきGW」を発表するJAXAの小島寧(やすし)プロジェクトマネージャ(左)=先月27日(オンライン取材画面から)

 AMSR3のデータは米国でも、米海洋大気局(NOAA)を通じて政府機関や大学などで活用される。NOAAのステファン・ボルツ衛星情報サービス長官補は会見で「(しずくの先代などを含む日本の)AMSRシリーズのデータは20年以上にわたり、水循環観測のゴールドスタンダード(優秀な模範)になっている。AMSR3により、国際社会に新たな重要な機会が開かれた。JAXAとNOAAが連携し、そのデータを活用するのが楽しみだ」と期待を込めた。

 衛星による環境、大気観測で、日米の連携は活発だ。AMSRシリーズは米国の衛星にも搭載され、しずくなどと共に日米仏の地球観測衛星コンステレーション(隊列)「Aトレイン」を構成してきた。また、米航空宇宙局(NASA)とJAXAは「全球降水観測計画(GPM)主衛星」を共同開発し、2014年にH2Aで打ち上げた。

 NOAAのボルツ氏は「Aトレインではそれぞれに価値のある衛星を組み合わせ、さらに強力な観測システムが実現した。またGPMには自ら観測するのに加え、他の十数基の衛星の観測データを較正する役割もある。データを連携させることで観測対象についてより多く学べ、さらに大きな価値が生まれているのだ。日本の地球観測への貢献は非常に影響力があり、協力関係の好例となっている」と意義を強調した。

]]>
世界の水問題に挑む信大クリスタル 安全な水を届ける https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/videonews/m240001013/ Fri, 27 Jun 2025 06:43:45 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=gateway&p=54423  水は命と暮らしを支えます。しかし、世界にはその恩恵を得られない地域があります。その課題に、光輝く結晶をつくる技術で取り組んだ研究者たちがいます。
【2022年度「STI for SDGs」アワード優秀賞受賞】

再生時間:5分 制作年:2025年

出演・協力機関

ゴドフリー・ムコンゴ(タンザニア フッ素除去研究所)
Dr. Godfrey Mkongo(Ngurdoto Defluoridation Research Station)
手嶋勝弥(信州大学卓越教授/信大クリスタルラボ)

]]>
我が輩は「オレンジ猫」である 三毛猫の毛色決める遺伝子を特定、クラファンが謎解きを後押し https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20250623_g01/ Mon, 23 Jun 2025 06:39:37 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=gateway&p=54362  主にメスしかいない三毛猫やサビ猫は、X染色体上の遺伝子が色素細胞で通常とは異なる発現をするためオレンジ色の毛が生えるということを、九州大学などの研究グループが明らかにした。研究を率いたのは、遺伝子の発現制御に関わるエピジェネティクス研究の第一人者として知られる九大高等研究院の佐々木裕之特別主幹教授。クラウドファンディングの後押しを受けて謎解きに挑んだ。

三毛猫と佐々木裕之特別主幹教授。ネコだけでなくイヌも好きだが、家では飼えていないのだという(ご本人提供)
三毛猫と佐々木裕之特別主幹教授。ネコだけでなくイヌも好きだが、家では飼えていないのだという(ご本人提供)

一般向け書籍、副題の提案を承諾

 佐々木特別主幹教授は医学部の学生のとき、顕微鏡で観察した細胞の美しさと、多様な働きに魅了された。卒業後は一度、内科医になったものの、「遺伝子のスイッチを研究したい」と、大学院に戻った。基礎医学分野の中でも細胞の分化や生殖・発生を研究し、とりわけ、エピジェネティクス分野で英科学誌「ネイチャー」や米科学誌「サイエンス」に論文が載るような成果を挙げてきた。2005年5月に岩波書店から出版したのが「エピジェネティクス入門」という一般向けの書籍だ。

 エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列は変わらないのに、DNAメチル化やヒストンタンパク質の様々な修飾によって遺伝子の働きが変わる、遺伝子のスイッチ機能の一種である。例えば、一卵性双生児は同じゲノムを持つのに、見た目が異なったり、生育環境などによってDNAメチル化に違いが出たりする。「猫にもなれば虎にもなる」わけだ。しかし、出版当時、エピジェネティクスは新しい概念であまり知られていなかった。

双子でも身体的特徴や罹患する病気が異なることはエピジェネティクスで説明できる
双子でも身体的特徴や罹患する病気が異なることはエピジェネティクスで説明できる

 岩波の担当者に「エピジェネティクス入門では専門家向けの印象を与えるので、例えば『三毛猫の模様はどう決まるのか』と副題を付けてはどうでしょうか」と提案されたが、三毛猫のことは「数ページしか書いてないし、分かっていないことも多いのだが……」と思ったそうだ。しかし、生物の教科書や大学入試に出てくる身近な事例で、イヌ・ネコ好きでもある佐々木特別主幹教授は「一般読者にも興味を持ってもらえるなら」と承諾したという。

どの遺伝子か、「自分たちで調べよう」

 三毛猫やサビ猫の斑状の模様を決める仕組みは、英国の学者によって1961年に提唱されていた。三毛猫は白、黒、オレンジの模様が美しいネコで、サビ猫は黒とオレンジの毛を持つ。オレンジと黒の2色を切り替える遺伝子はX染色体上に存在し、X染色体を2本持つメスは、片方にオレンジ、もう1本に黒に関する遺伝子を持つことができる。

 オスはXYの染色体を持つため、1本のX染色体によってオレンジか黒の単色になる。白などは別の遺伝子で決まる。しかし、メスはエピジェネティクスによって2本のうちどちらかのX染色体がランダムに選ばれて不活化されるため、皮膚の領域によってまだら模様の三毛猫やサビ猫が生まれるという仕組みだ。

ネコの毛色が発現する仕組み。メス猫はX染色体の一方が不活化するため、様々な色になる
ネコの毛色が発現する仕組み。メス猫はX染色体の一方が不活化するため、様々な色になる

 だが、黒、オレンジを決めるX染色体上の遺伝子が具体的にどの遺伝子なのか、そして、その遺伝子はメスネコで実際に不活性化を受けるのかどうかを調べる論文はなかった。佐々木特別主幹教授は「そのうち誰かが研究するだろう」と20年近く放っておいたが、「猫の首に鈴を付ける」研究は現れずじまい。月日は流れ、定年退職が近づいてきたため、「古典的なエピジェネティクス現象の分子基盤を知りたい。誰も論文を出さないならば、自分たちでオレンジ色の遺伝子の実体を調べよう」と心を決めた。

ネコ好きが集合、支援額は目標の2倍に

 しかし、研究には「猫の手も借りたく」なるほどに人材や資金が必要になる。知り合いなどに声をかけると、全国の大学や研究機関から、幅広い分野の「ネコ好きさん」の研究者、獣医師が手を挙げた。さらに研究に協力する飼い主も現れ、福岡市内の動物病院を中心に、まずは18個体のネコの血液や組織片からDNAを集められた。18個体の内訳は、三毛猫8、サビ猫1、オレンジ猫1、対照群8だった。

 その後、保護猫活動を行う獣医師から「さくらねこ無料不妊手術事業」の処置で出た組織片ももらい受け、合計58個体分のDNAを抽出した。「珍しいオスの三毛猫を飼っているが、もうすぐ亡くなりそうなので、お役に立てないか」という献体ならぬ「献猫」の申し入れもあり、看取りをした動物病院でサンプルを分けてもらうことができた。

 続いて、定年退職の1年後には受給中の科研費が終了することに鑑み、九大が実施するクラウドファンディングで研究費を集めることにした。2022年12月から「三毛猫の毛色をつかさどる遺伝子を解明したい!〜60年間の謎に挑む〜」というタイトルで資金を募ると、翌年1月までに目標金額500万円に対し619人から支援額1068万円が集まり、諸経費を引いた金額を研究に用いた。

全ゲノム解析、米大のネコデータも活用

 提供されたネコ18匹分の全ゲノム解析を行い、国立遺伝学研究所と麻布大学の共同研究者が決定した最新かつ高精度のネコの全ゲノムデータと比較した。その結果、オレンジの毛を持つネコは、X染色体上にある「ARHGAP36」(エイアールエイチギャップ36)と呼ばれる遺伝子内に5000塩基ほどの欠失を持つことが分かった。この関係性は追加サンプルでも確認できた。オスの三毛猫にもこの欠失が存在し、そのオスはX染色体を2本持つXXYの個体だった。

 なお、米ミズーリ大学のプロジェクトでネコの全ゲノムデータを数多く収録・公開しており、このデータでもオレンジの毛と欠失における関係性を確認した。ネコの毛の色まで記載されているデータは少なく、照合に利用できたのはごく一部だったものの、計67個体のデータでオレンジ毛と欠失の関係性を確かめられ、「借りてきた猫のデータ」も有用だった。

ネコのオレンジ毛は、ARHGAP36領域の塩基の欠失と関連していた(九州大学提供)
ネコのオレンジ毛は、ARHGAP36領域の塩基の欠失と関連していた(九州大学提供)

 続いて、亡くなった三毛猫から提供してもらった皮膚片の全遺伝子の発現を解析すると、オレンジ毛の皮膚ではARHGAP36が黒毛の皮膚より恒常的に強く発現していた。また、ARHGAP36領域の欠失によって、ARHGAP36の発現が異常に促進されることが分かった。そして、メス猫では同領域でX染色体の不活性化に伴うメチル化が起こり、エピジェネティクスによる遺伝子の発現調節が生じていることを確認することができた。

 ARHGAP36遺伝子はメラニン合成の経路を抑える働きをすると推測される。そのため、遺伝子が働きすぎるとメラニン合成遺伝子群の発現が低下し、フェオメラニンという色素が優位になり、オレンジ毛が生じる。他方で遺伝子が抑制されると、メラニン合成遺伝子が活発になり、ユーメラニンという色素の比率が増え、黒色の毛が生じる。

ARHGAP36遺伝子内に欠失があるとメラニン合成遺伝子群の発現が低下し、黒色のユーメラニンが減少して、オレンジ色のフェオメラニンが増加する(九州大学提供)
ARHGAP36遺伝子内に欠失があるとメラニン合成遺伝子群の発現が低下し、黒色のユーメラニンが減少して、オレンジ色のフェオメラニンが増加する(九州大学提供)

日米のグループ、同じ成果にたどり着く

 これらのデータを集める過程で、米スタンフォード大学の研究グループも同様の実験を行っているという噂を耳にした。佐々木特別主幹教授は「猫だまし」されない程度にデータを固めた上で、討論会をしないかとメールで打診したところ、快諾された。互いにオレンジの毛色はARHGAP36遺伝子内の欠失由来であることを確認した。

 しのぎを削り合う研究の世界で、成果を論文として出版する前に開示することを躊躇しなかったか尋ねると、佐々木特別主幹教授は「以前ネイチャーに論文を発表したときも海外の研究グループと同時に投稿した。同じことを2カ所で継続的に行うのは無駄が多いし、何よりも競争で互いに疲弊する。独立して研究して同じ結論であったのなら信ぴょう性が増すし、インパクトも大きい」と持論を語った。

 最終的に、スタンフォード大の研究グループは色素細胞のデータを加え、佐々木特別主幹教授らのグループはエピジェネティクスに関するデータを含めて論文化した。それぞれの論文は、米科学誌「カレント バイオロジー」電子版の5月16日号に掲載された。なお、両グループが24年11月に査読前のプレプリントとして論文を公開したところ、佐々木特別主幹教授らの論文だけでもわずか数カ月で6000回ダウンロードされるほど注目を集めていた。

資源なき日本、「科学技術と教育への投資重要」

ネコの研究を通じ、「身近な現象でも分かっていないことがある」と話す佐々木特別主幹教授(ご本人提供)
ネコの研究を通じ、「身近な現象でも分かっていないことがある」と話す佐々木特別主幹教授(ご本人提供)

 佐々木特別主幹教授は自身の研究人生を振り返り、「私の分野は次世代シーケンサーやゲノム編集やAIといった技術革新の助けを借りることができた」という。定年退職後も残った研究を続けるために、九大に通う。今後、ARHGAP36のヒトにおける働きや、ネコで色素を調整するメカニズムや、ARHGAP36領域の欠失の起源などを詳しく調べたいという。

 今回、このテーマで科研費に応募することもできたが、「国の予算には枠があるので、自分が採択されると他人がもらえなくなる」と、利他の精神でやってきた。国に依らない多様な研究資金獲得の方法を具現化し、クラウドファンディングで資金が集まったことに感謝しつつも、「本来は社会が基礎研究の重要性を理解し、国ももっと予算を付けてほしい」と注文をつけた。

 佐々木特別主幹教授は「資源のない日本は科学技術と教育への投資が重要。一見役に立つかどうか分からずとも、独自の視点で他人がやらない研究を推進すべき。また、日本でも欧米並みに寄付の土壌ができるとうれしい」と結んだ。

 市民が科学者の研究に参画することはハードルが高いように感じるが、身近なペットが偉大な発見につながることもある。理系離れが進む中で、「猫の額」のような見識ではなく、広い視野と思いやりを持つことが大切だと教えてくれる研究だった。

]]>
光の槍が切り拓く未来の扉 もうすぐ実現?核融合エネルギー https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/videonews/m240001012/ Fri, 20 Jun 2025 05:00:39 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=gateway&p=54351  近年、アメリカのレーザー核融合実験で、投入した量を上回るエネルギーを取り出すことに世界で初めて成功しました。これを機に核融合実用化への機運が高まっています。レーザー核融合の日本での研究拠点の一つ、大阪大学を訪ねました。

再生時間:5分 制作年:2025年

出演・協力機関

岩田夏弥(大阪大学レーザー科学研究所 教授)
兒玉了祐(大阪大学レーザー科学研究所長 教授)

]]>
土を生かす ソイルセメントで暮らしと環境を守る https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/videonews/m240001011/ Fri, 13 Jun 2025 06:03:07 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=gateway&p=54289  私たちの安全を守るために欠かせないダムや堤防。これらの建設に用いられるコンクリートに関わる課題に、土を資源として生かして解決しようという取り組みがあります。
【2023年度「STI for SDGs」アワード優秀賞受賞】

再生時間:5分 制作年:2025年

出演・協力機関

秋山祥克(株式会社インバックス代表取締役)

]]>
アイスペース月面着陸また失敗 直前の減速不十分で衝突か https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20250609_g01/ Mon, 09 Jun 2025 07:41:08 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=gateway&p=54246  宇宙ベンチャー、アイスペース(東京)の月面着陸機「レジリエンス」が6日午前、月面への軟着陸を試みたが失敗した。着陸直前の減速が不十分のまま、月面に衝突した可能性が高いという。同社は2023年4月にも失敗しており、再挑戦も実らなかった。わが国では昨年1月の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「スリム」に続き2機目、また米国以外の民間で初の着陸となるか、注目されていた。

月面に着陸した場合のレジリエンス(左)と、搭載した小型探査車の想像図。この姿は実現しなかった(アイスペース提供)
月面に着陸した場合のレジリエンス(左)と、搭載した小型探査車の想像図。この姿は実現しなかった(アイスペース提供)

「ここで着陸しておきたかった」

会見でレジリエンスの着陸失敗を説明する袴田氏=6日、東京都千代田区
会見でレジリエンスの着陸失敗を説明する袴田氏=6日、東京都千代田区

 レジリエンスは同社の月面着陸計画「ハクトR」の2機目で、英語で回復力を意味する。6日午前に都内で会見した同社の袴田武史最高経営責任者(CEO)は「非常に残念。米国の2社が着陸させており、ここでわれわれも着陸しておきたかった。支援いただいてきた方々に非常に申し訳ないが、しっかり次につなげたい。月着陸機を飛ばせる企業は非常に限られており、なるべく早くキャッチアップし、世界をリードできる事業の進展を引き続き目指す」と話した。

 レジリエンスは1月15日、米フロリダ州のケネディ宇宙センターから、スペースXの大型ロケット「ファルコン9」で打ち上げられた。前回に続き、地球や月の引力などを利用して燃料を節約できる「低エネルギー遷移軌道」を採用。打ち上げ後8日で着陸した1969年の米アポロ11号などに比べ長く、4カ月半あまりの行程で月を目指した。

 先月7日に月周回軌道に到達後、2回の主エンジン噴射で高度を下げ、同28日に月上空100キロを周回する円軌道に入った。今月6日午前3時13分、着陸作業を開始。計画では、時速5800キロから段階的に減速して高度を下げ、着陸の2分ほど前から補助エンジンを併用し姿勢を変更。最終降下を進め同4時17分、北半球中緯度にある「氷の海」に着陸するはずだった。ところが上空20キロを過ぎて主エンジンを噴射した後、機体からの信号が途絶。着陸予定時刻を過ぎても通信が確立できないことから、アイスペースは失敗と判断した。

測距が遅れ、一生懸命エンジンを噴いたが…

 同社は今後、原因究明を進める。直後の分析では、月面からの高度を測るセンサーが想定より遅く測距を始めたことと、減速が不十分だったことが判明した。機体は月面に衝突したとみられる。

 同社の氏家亮最高技術責任者(CTO)によると、推定高度192メートルまで降下して以降、機体からの信号が途絶した。「(測距センサーを)高度20キロ付近で起動後、10~3キロほどで測距が始まると想定していたが、実際には遅く、1.5~1キロほどで始まったようだ。その時点で降下が速すぎた。機体が速度を落とそうと一生懸命にエンジンを噴いたが、不十分だった。このようなシナリオと思われる。因果関係をしっかり詰めたい」と説明した。他に姿勢やエンジン、ソフトウェア、センサーの問題も考えられるという。

着陸予定の1分35秒前を示す中継画面。機体から送信されたデータを反映したものだが、この15秒前まではエンジンの噴射を示していた。その後このように、降下速度や高度も含め、データが途絶えたように見えた(アイスペース提供)
着陸予定の1分35秒前を示す中継画面。機体から送信されたデータを反映したものだが、この15秒前まではエンジンの噴射を示していた。その後このように、降下速度や高度も含め、データが途絶えたように見えた(アイスペース提供)

 ハクトRの1機目は2023年4月、日本初、かつ民間世界初が懸かった月面着陸に挑んだものの失敗した。原因は、降下中に高度の推定値と測定値の乖離(かいり)が拡大し、機体のソフトウェアが、ほぼ正確だった測定値の方を異常と判断し棄却したためだった。このため降下中に高度5キロ付近で燃料が切れ、機体が月面に激突した。事前に着陸地点を変更しており、航路上の地形の検討が甘かったことも要因という。

 この失敗を受け、レジリエンスでは着陸時の制御のソフトウェアを基本的に維持しつつ、飛行経路のシミュレーションを重ね、起こり得る事象を詳しく評価。それらの影響を受けても機体が対応できるよう調整していた。

 レジリエンスは、着陸用の足を展開した状態の高さが2.3メートル、幅2.6メートル、燃料を除く重さ340キロ。同社の欧州法人が開発した小型探査車のほか、月面用水電解装置やアニメ作品関連の合金プレートなど、国内外の企業や大学などの5つの機器や物品も搭載したが、失敗によりいずれも喪失した。月面の砂を採取し、所有権を米航空宇宙局(NASA)に譲渡する商取引も計画していた。

「『失敗』の言葉、ネガティブに感じられるが変えたい」

打ち上げ前、報道陣に公開されたレジリエンス=昨年9月、茨城県つくば市
打ち上げ前、報道陣に公開されたレジリエンス=昨年9月、茨城県つくば市

 アイスペースは先代の計画「ハクト」で米財団の月面探査レースに参加したが、2018年3月の期限までに実現できなかった(勝者なし)。今回に続くハクトRの3機目は、同社の米国法人と米航空宇宙局(NASA)との契約に基づく商業計画に参画し、機体開発を担当するもの。重さ1.73トンと大型化し、27年に打ち上げ、月の裏側の南極付近に着陸する。以降も着陸機の開発、運用を重ね、月面の資源利用、周辺の開発を通じた経済圏の構築を目指す。

 このように同社は現状では、着陸成功の実績を持たないまま、3機目以降を大型化する計画だ。会見で指摘を受けた袴田氏は「(3機目以降は)輸送量を増やし、事業として利益を獲得していくことを見立てているが、今回の原因のインパクトが見えていない中で、判断はこれからとなる。ただ基本的には(大型化の)実現にしっかり取り組んでいきたい」とした。

 無人機の月面軟着陸は1966年、旧ソ連の「ルナ9号」が初めて成功し、米国と中国、インドが続いた。日本はスリムが昨年1月、横転したものの、実質的な位置誤差10メートル以下の高精度着陸を達成。5つ目の着陸国となった。民間では昨年2月、米インテュイティブマシンズの「オデッセウス」が、やはり横転しながらも初めて成功。続いて今年3月、米ファイアフライエアロスペースの月面着陸機「ブルーゴースト」が成功した。同機はレジリエンスとロケットを相乗りして地球を出発したが、成否が分かれる形となった。その5日後にはオデッセウスの後継機「アテナ」が、またも横倒しで着陸している。

先月16日にレジリエンスが撮影した月。右には機体の一部が写り込んでいる(アイスペース提供)
先月16日にレジリエンスが撮影した月。右には機体の一部が写り込んでいる(アイスペース提供)

 月面で米企業が先行する中、レジリエンスは、日本企業が頭角を現すための正念場を逃した。原因の詳しい検証を待ちたいが、1機目に続き、着陸目前の測距に絡む失敗のようだ。袴田氏は昨年9月の会見で「最初のグループにいることは重要で、2年、3年と遅れないよう(レジリエンスで着陸を)実現したい」と話していたが、やや遠のいた観が否めない。残念であると同時に、まとまった重力があり、大気のない天体への軟着陸の難しさを物語ってもいる。

 袴田氏は今年1月には、筆者の質問に答える中で「失敗という言葉はネガティブに感じられるが、それを変えたいとの思いが強い。前回達成できなかったことを次はしっかり実現できるよう、行動していく。会社としてこれができる環境をしっかり作り、チームが活動できることが何よりも重要だ」と力説した。宇宙ビジネスの壮大な夢が詰まった計画。重ねた失敗を糧に、次こそ成功を勝ち取ってほしい。

レジリエンスの着陸失敗を明らかにしたアイスペースの会見。左から氏家氏、袴田氏、野崎順平最高財務責任者(CFO)。多くの企業が支援する中、次回こそ笑顔を期待したい=6日、東京都千代田区
レジリエンスの着陸失敗を明らかにしたアイスペースの会見。左から氏家氏、袴田氏、野崎順平最高財務責任者(CFO)。多くの企業が支援する中、次回こそ笑顔を期待したい=6日、東京都千代田区
]]>
量子コンピューター ビジネスの時代へ https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/videonews/m240001010/ Fri, 06 Jun 2025 06:17:48 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=gateway&p=54238  量子が持つ性質を利用して、従来のコンピューターでは解くことが難しい複雑な計算を処理できるのが「量子コンピューター」です。そのアルゴリズム開発の最前線に立つスタートアップ企業を訪ねました。

再生時間:5分 制作年:2025年

出演・協力機関

大関真之(東北大学大学院情報科学研究科 教授、シグマアイ 代表取締役)
松下雄一郎(Quemix(キューミックス) 代表取締役)

]]>
誰もが自分の医療データを持ち歩ける時代へ https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/videonews/m240001009/ Fri, 30 May 2025 06:22:40 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=gateway&p=54187  何かのきっかけで病院を受診する際には、さまざまな検査を受ける機会があります。患者は、これらのデータが自分のものでありながら、自由に触れたり利用することが難しいと感じることもあります。より開かれた医療を、情報工学によって実現する取り組みを紹介します。
【2022年度「STI for SDGs」アワード科学技術振興機構理事長賞受賞】

再生時間:5分 制作年:2025年

出演・協力機関

金太一(東京大学大学院医学系研究科医用情報工学 特任教授/脳神経外科)

]]>
牧場発の未来エネルギー バイオガスとグリーンLPG https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/videonews/m240001008/ Fri, 23 May 2025 06:20:33 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=gateway&p=54130  持続可能なエネルギーが求められる中、 農業が盛んな地域からも環境や産業に根ざしたさまざまな技術が提案されています。畜産の廃棄物を使って未来のエネルギー開発を実践する、北海道鹿追町を取材しました。

再生時間:5分 制作年:2025年

出演・協力機関

城石賢一(鹿追町 農業振興課長)
柳美澤綾(古河電気工業株式会社 サステナブルテクノロジー研究所)

]]>
北極の実像を究めよ わが国初の研究用砕氷船「みらい2」建造進む https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20250520_g01/ Tue, 20 May 2025 06:10:41 +0000 https://scienceportal.jst.go.jp/?post_type=gateway&p=54099  北極域の研究に活用する、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の新たな観測船の建造が進んでいる。進水式で「みらい2」と正式に命名され、来年11月の引き渡しに向け整備が続く。わが国の研究船では初めて砕氷能力を持つことが最大の特徴で、地球規模の気候変動に深く関わる北極域の観測の大黒柱となる。冬季の北極海氷域の面積が衛星観測史上最小を記録したことが先月、明らかになるなど懸念が深まる中、北極の実像を究めようとするみらい2への期待が高まっている。

進水式を迎えた「みらい2」=今年3月、横浜市磯子区(JAMSTEC提供)
進水式を迎えた「みらい2」=今年3月、横浜市磯子区(JAMSTEC提供)

「データの空白を埋める」

 みらい2は全長128メートル、幅23メートル、船の大きさを表す国際総トン数1万3000トン、乗員97人となる計画。建造費は339億円。造船大手のジャパンマリンユナイテッド(横浜市)が2021年8月、横浜市磯子区の工場で建造を開始した。今年3月19日には進水式を挙行。天皇、皇后両陛下の長女、敬宮(としのみや)愛子さまが臨席され、船体を支えるロープ「支綱(しこう)」を進水のため斧(おの)で切断された。今後は内装工事や機器類の搭載などを進める。

 現行の海洋地球研究船「みらい」の後継。みらいは、わが国初の原子力船「むつ」を改装して1997年に竣工し、世界最大級の海洋観測船として北極海や太平洋、インド洋などの調査を担ってきた。優れた耐氷、航行性能を持つ一方、砕氷能力がないため海氷域に踏み込めなかった。これに対し、みらい2は厚さ1.2メートルの平坦な海氷を連続して砕きながら、3ノット(時速5.6キロ)で進める。ポーラークラス4と呼ばれる、十分な砕氷・耐氷性能を備える。

 JAMSTECの赤根英介・北極域研究船推進部長は「北極は日本から遠いイメージがあるかもしれないが、その変化は日本も含め地球全体に影響を及ぼしている。各国による変化予測にはばらつきが大きく、詳しい観測が必要だ。さまざまな課題の解決に貢献すべく、データの空白を埋める国際観測プロジェクトを、みらい2でリードしていく」と説明する。

砕氷しながら進む、みらい2の想像図(JAMSTEC提供)
砕氷しながら進む、みらい2の想像図(JAMSTEC提供)

 赤根氏によると、研究船としては珍しく、通常のディーゼル燃料に加えLNG(液化天然ガス)も使える二元燃料エンジンを採用。また、気象観測に用いるドップラーレーダー、魚群探知機、遠隔操縦無人潜水艇、ヘリコプター、研究者らを乗せて海氷に降ろす「マンライディングバスケット」などを搭載することで、「さまざまな海域における大気、気象、海洋、海氷のオールラウンドな観測研究機能を実装する」という。

 なお国立極地研究所の南極観測船「しらせ」は、海上自衛隊が砕氷艦として運用しているが、物資や人員の輸送が主。砕氷ができるのは研究船としては、みらい2がわが国初とみなされるという。

海氷の“床暖房”、北極海航路…研究課題山積

 南極大陸とは違い、北極域は海が広範囲を占め、北極点も海水が凍った海氷の上にある。今年1月にはJAMSTECと北海道大学、東京海洋大学などの研究グループが、太平洋から暖かい水が海氷の下に流れ込み、熱が顕著にたまり続けている現象が、報告例に乏しかった一部海域でも起きていることを明らかにした。この熱が床暖房のように海氷を暖め、解かす恐れが指摘されている。JAMSTECの菊地隆・北極環境変動総合研究センター長は「熱がどこから来て(海氷と)どう相互作用するのか、詳しく調べなければならない」と話す。

 極夜の前後に海氷ができたり解けたりする過程の理解も、課題となる。各地の森林火災で発生し大気に運ばれた煤(すす)が、北極海で氷の融解を加速したり、雲ができる核になったりする物理の解明、北極海の歴史の探究なども重要という。

 大西洋と太平洋を結ぶ北極海航路は、夏の一部の日に海氷が解けて開通し、エジプトのスエズ運河経由に比べ大幅に近道となる。通行の可否判断などのため、人工衛星の観測データが重要だ。ただ、衛星データによると通れないものの、現地の海氷の状況や船の等級によっては通れるケースがあるという。「海氷状況と衛星データの違いは航路にとって重要であり、調査する必要がある」(菊地氏)。

 みらい2の観測計画は、JAMSTECと極地研が連携して策定する。計画案では就航後、翌2027年に初の北極航海で北極点を目指す。32~33年の第5回「国際極年」を控え、毎年の計画案が具体化しつつあり、こうした研究課題に挑戦していく。船を長期に運用していくための人材育成も進める。

ヘリコプターから見た北極海の海氷=2008年9月(JAMSTEC提供)
ヘリコプターから見た北極海の海氷=2008年9月(JAMSTEC提供)

海氷域面積が最小、宇宙からも監視継続

 冬季の北極海氷域面積が3月20日、年間最大の1379万平方キロを記録した。これが衛星観測史上、最小だったことを先月18日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と極地研の研究グループが発表した。2012年から運用中の水循環変動観測衛星「しずく」など、国内外の衛星の47年間の観測データから判明した。

 JAXAの山川宏理事長は同日の会見で「北極海氷域面積の減少により、気象や海洋環境への影響が懸念される。観測データと研究解析の継続が非常に重要であることが、今回の成果から改めて認識できた。気候変動の監視にさらに貢献していきたい」と話した。

 しずくによる海氷域の解析では、搭載した高性能マイクロ波放射計「AMSR(アムサー)2」を活用している。地表や海面、大気などから放射される微弱な電磁波であるマイクロ波を捉える仕組みだ。JAXAと環境省、国立環境研究所は、その後継で観測波長帯を拡張した「AMSR3」を搭載した温室効果ガス・水循環観測技術衛星「GOSAT(ゴーサット)-GW」を来月24日、H2Aロケット最終50号機で打ち上げる。

温室効果ガス・水循環観測技術衛星「GOSAT-GW」の想像図(JAXA提供)
温室効果ガス・水循環観測技術衛星「GOSAT-GW」の想像図(JAXA提供)

 昭和基地の活動や、映画にもなった観測隊の樺太犬などの影響で、現代の少なからぬ日本人にとって、北極より南極の印象が強いのではないか。観測船しらせを知っていても、みらいを知らなかった人も少なくないのでは。しかし、南極探検で知られる白瀬矗(のぶ、1861~1946)が当初は北極を目指すなど、日本人は歴史上、北方探検の熱い志を持ってきた。その志を、みらい2をはじめとする観測手段が引き継ぎ、船名の通りに人類の未来に貢献することを期待したい。

]]>