レビュー

科学技術に関する世論調査結果をどう見るか

2010.03.17

 内閣府が15日、科学技術と社会に関する世論調査結果を発表した。

 全国20歳以上の3,000人を層化2段無作為抽出法で選び、調査員による個別面接聴取法で調査し有効回収率63.9%という調査結果だ。電話調査やインターネット業者によるインターネット調査などに比べて、調査結果に対する信頼度は高いと見てよいのだろう。

 結果はどうか。「科学技術についてのニュースや話題に関心がある」63.0%、「科学技術の発展により『物の豊かさ』が向上したと思う」84.2%、「科学技術の発展により『社会や生活の安全性』が向上したと思う」68.2%。こうした数字を見ると、日本人の大人の科学技術に対するイメージ、評価はまずまずよいように見える。「科学者や技術者は一般に社会的地位が高いと思う」と答えた人も71.0%に上る。

 一方、「日本の科学技術は諸外国に比べ進んでいると思う」79.5%、「日本が国際的な競争力を高めるためには、科学技術を発展させる必要がある」86.7%という数字になると、どうだろうか。科学技術政策にかかわる人々、産業界の技術者、大学の理系学部、大学院の指導的研究者たちの中には、このような高い数字に勇気づけられる一方、現実の諸問題が同時に頭に浮かぶのではないだろうか。何年も前から言われる理科離れをはじめとする科学技術に対する国民一般の理解への懸念だ。

 北澤宏一 氏・科学技術振興機構理事長は最近よくシンポジウムなどで、高校生や大学生の多くが科学技術にマイナスのイメージを抱いている実情を話題にする。科学技術は社会を悪くしたと考える若者がむしろ多いと思われる、というのだ。現在、当サイトで掲載中のインタビュー記事「基礎学力低下防ぐために」の中で、西村和雄 氏・京都大学経済研究所長も大きな危機意識を明らかにしている。大学入試改革で入試科目が減ったことや、ゆとり教育などの影響で、日本の大学生、大学院生の基礎学力(数学、理科)の低下は著しく、「日本の一流製造企業では既に2000年ぐらいから、日本の大学の大学院生は雇わない、中国の大学院生しか雇っていないという企業がある」というのだ。

 北澤、西村両氏の見方には異論があるかもしれない。しかし、大学の理、工学部の人気が低落している、つまり高校生にとって科学技術はかつてほど魅力がある対象ではなくなっている現実は認めざるを得ないだろう。

 今回の内閣府調査の結果は、科学技術に対する期待が実際より高めに出ていると見るべきだろうか。それとも、科学技術政策で科学コミュニケーションが重視されるようになった効果などが反映されたもの、と喜ぶべきだろうか。

 前回調査(2007年)の数字と比べてみる。「科学技術の発展により『物の豊かさ』が向上したと思う」(1.7ポイント増)、「科学技術の発展により『社会や生活の安全性』が向上したと思う」(14.2ポイント増)、「日本の科学技術は諸外国に比べ進んでいると思う」(7.2ポイント増)、「日本が国際的な競争力を高めるためには、科学技術を発展させる必要がある」(8.4ポイント増)と軒並み上がっている。

 これらの数字を見る限りでは、後者の解釈が成り立つようにも見えるのだが。

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