レビュー

編集だよりー 2006年12月19日編集だより

2006.12.19

小岩井忠道

 今年の冬は何か生暖かい日が多い。忠臣蔵でも聴けば年末という気分になるだろうか。一枚も手のついていない年賀状も…。などとよからぬ思いも抱きながら、国立演芸場の「女流義太夫演奏会」に出かけた。

 例年、12月の演目は「仮名手本忠臣蔵」と決まっているらしい。今年は三段目「裏門の段」と七段目「祇園一力茶屋の段」である。「セルリンタワー能楽堂」の5周年記念公演「語り・舞・能舞〜馬場あき子による『橋姫』の世界」(2日編集だより参照)にも出演していた竹本朝重が、大星由良之助だ。

 今度は、セルリンタワー能楽堂の公演のような新作ではない。由良之助の台詞など、すっかり手の内に入っている。そんな感じの、貫禄十分な語りであった。

 などと偉そうなことをいうと、自分でも恥ずかしくなる。二松学舎の学長や理事長を務められた佐佐木鍾三郎さん(折り入って尋ねたことはないが、義太夫協会の後見人のような立場にあるらしい)の招待で、数年前から鑑賞し始めた初心者だ。一応、義太夫協会の賛助会員だが、実は最近、ようやく何を言っているのか少しは分かるようになった。それも舞台そっちのけで、脚本とにらめっこをしていればである。

 佐佐木さんは高校の大先輩だ。鑑賞後は、いつも九段上にある先生なじみの寿司屋でミニ同窓会となる。当初は、毎回、先生のおごりだったが、いくらなんでもとうに年金生活に入っておられる先生におんぶにだっこでは、とだれかが言い出し、一定額を徴収することにしている。支払いの一部にしかなっていないのは、まず間違いないが。

 世の中の景気が悪いと恋愛小説がよく読まれる、とだれかに聞いたことがある。精神的な楽しみは、金もあまりかからずにすむ、ということらしい。

 今年最後の女流義太夫演奏会も、いつになく観客が多かった。

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