「高い信頼性と低コストのロケットを目指し」

日本が必要とする衛星などを必要な時期が打ち上げることのできる宇宙輸送システムの開発が、昨年度から始まった第3期科学技術基本計画の国家基幹技術に据えられた。ロケット開発は、長年、国家プロジェクトとして進められてきた実績がある。この時期、あらためて国家基幹技術とされたことの狙いや目標について、プロジェクトを率いる宇宙航空研究開発機構の河内山治朗宇宙基幹システム本部長に聞いた。
—国家基幹技術として宇宙輸送システムが第3期科学技術基本計画に据えられました。何が求められているのでしょう。
何が一番重要かと言えば、落ちないロケットをつくることです。絶対落ちないということはあり得ないので、落ちないように努力していく、それが第一です。次に落ちないようにした上で、どれだけ安くできるか、ということです。
これまで12回H-ⅡAロケットを打ち上げてきたので、改良、改善をどうしたらよいかということは分かってきた。そういうものを通じてコストダウンをはかるための改善、改良を行うということです。
エンジンの場合であれば、これまでは、エンジンの部品であるターボポンプの試験をして、それで大丈夫ならエンジンに組み込んでさらにエンジンの試験をするということをしていた。ターボポンプという単体の試験をして、それでOKであればエンジンに組み込むというプロセスをとってきたわけです。
しかし、12回の打ち上げとこれまでの経験からターボポンプの試験というのは、製造に関するプロセスが確定してきてほとんど問題がないレベルに達してきた、という判定ができるのではないか。そうであれば、単体の試験を省略し、いきなりエンジンの試験をやるという形で、信頼性を落とすことなく簡略化できるのではないか、といま一生懸命考えているところです。
12号機までの経験を基にもう一度原点に立ち返って考えてみるということです。落ちないようにするというところはある程度できてきているので、今度は競争力を持たせる形にしなければならないと、いろいろ方策を考えているということです。
国家基幹技術として何が大事かというと、いつでも打てるロケットが常にあるということ。それが落ちないロケットをつくる必要があるということにつながってくる。その上でどれだけ安くつくれるかということです。これは簡単な話ではないが、宇宙航空研究開発機構だけでなく、メーカーの人も含め一生懸命考えています。
—今の基幹ロケットであるH-ⅡAと新しいロケットの関係はどのように?
H-ⅡAも基幹ロケットとして維持していくわけですが、いつまでも同じということは、10年20年先を考えればあり得ない。どうするかということを常に考えていないで、守ってばかりいるとどこかでほころびが出ます。常に進むという攻めの心があって、初めて現状を維持することもできる。現在の基幹ロケットも維持していき、先を見越した計画を常に検討しておく必要があるということです。
10年後、20年後を見越したロケットとは、最初のH-Ⅱロケットを進化させ自分で立って自分で飛べるロケットを造りたいということでもある。H-ⅡAの前のH-Ⅱロケットは自分で立てなかった。固体ロケットブースターの支えがないと、ロケット自身では立てなかったのです。
H-ⅡAになって自分で立てるようになったが、ただ、自分で飛べないんです。固体ロケットブースターがないと飛び上がらない。次期のロケットは、固体ロケットブースターがなくても、飛び上がることができる、つまり、自分で立って自分で飛べる効率的なシステムのロケットにしたいと考えています。
ロケットを大形化することによって効率的にするというのが、伝統的な考え方です。われわれも、H-ⅡAまではその考え方できたが、次のロケットはさらに大型化を目指すのではなく、究極的な効率化を狙ってそのシステムの組合せで大きいものを目指す。つまり大きさは、H-ⅡA級でもよい。ただし、効率的な基本ロケットを束ねていけば、どんどん大きなものができる。クラスター化したもので、いずれは人を乗せることもできるものにしたい。自分で飛べるロケットのよいところは、これができることです。
基本となるコアロケットをどれだけよいものにできるかが、われわれの大きな課題ということです。
(続く)

(こうちやま じろう)
河内山治朗(こうちやま じろう)氏のプロフィール
1970年早稲田大学理工学部機械工学科卒業、宇宙開発事業団入社、98年宇宙輸送システム本部宇宙往還技術試験機プロジェクトマネージャ、宇宙輸送システム本部HOPE-Xプロジェクトマネージャ、2002年宇宙輸送システム本部H-ⅡAプロジェクトマネージャ、03年独立行政法人宇宙航空研究開発機構宇宙基幹システム本部H-ⅡAプロジェクトマネージャ、05年宇宙基幹システム本部事業推進部長、06年理事・宇宙基幹システム本部長