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頑張れば必ず何かが(細野秀雄 氏 / 東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授)

2011.07.22

細野秀雄 氏 / 東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授

FIRSTサイエンスフォーラム「ファースト:世界一の研究を目指して」(2011年3月26日、科学技術振興機構 主催)講演から

東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授 細野秀雄 氏
細野秀雄 氏

 私はもともとセラミックスの透明な半導体をつくろうと思って、ずっと研究をやってきた。ここ15年ほど科学技術振興機構の支援を受けて新しいセラミックス半導体を研究したが、その中の一つとしてガラスから非常にいいトランジスタが出てきた。今、液晶テレビに使われているアモルファスシリコン、これは1975年にできた物質だが、それよりも20倍性能のいいものを2004年につくった。これからのテレビはこのトランジスタで間違いなく動くようになる。大きな立体テレビが製品として現れ、そこに240ヘルツで動く酸化物薄膜トランジスタ(TFT)という言葉が出てきたら、それは私がつくったトランジスタだ。

 2番目は、皆さんよく知っている運動会で使う石灰アルミナを用いた研究成果だ。電気を流さない典型的な物質で、もし電気が流れると書いたら、入学試験は必ず落ちる。ところがこの物質をうまく工夫すると透明な半導体になり、さらに透明な金属になって、もう一回工夫すると、これで超電導体ができる。セメントの超電導体が本当にできた。

 3番目は、鉄系超電導体だ。超電導はその現象が見つかって今年でちょうど100年になる。今から100年前に、オランダ・ライデン大学のカマリン・オンネスがヘリウムの液化に成功、それで水銀が超電導になることを見つけた。予測してのことではない。その後、長い歴史があり、超電導になる温度が3年に1度ずつ上がっていった。しかし、超電導体を見つけようと思って、狙い通り見つけた人は一人もいない。

 超電導というのは磁場があると壊れてしまう。「磁石になる性質を持つものは、超電導にならない。鉄は一番有名な磁石だから、超電導体の材料としては最悪」と言われていた。しかし、これは物理を得意とする人たちの錯覚。水は火を消すけども、水素と酸素からできていて、水素は燃えるし、酸素はものを燃やす。化合物と単体の性質が違うのは当たり前だ。私が鉄系超電導体を見つけた時、何でこんなことで大騒ぎするのだろう、と実は思っていた。鉄系超電導体は磁石に強いなどいろいろ面白い性質がある。これからどんなことが出てくるか、分からない。

 これら3つの研究成果は、いずれも15年前に研究を始めた時は、ここまで行くとは全く思わなかった。ということは、こういうチャンスというのはわれわれの前にいくらでもあるということだ。われわれが天才だったからでは、絶対ない。こういう物質が山のようにあるのに、節穴で見つからないだけだ。

 科学技術振興機構のERATOというのは花形の研究支援制度で、何十億円もの研究費をもらって「セメントの研究をやる」などと正直に申請したら「ばか言え。いい加減にしろ」と言われただろう。だから、初めは提案書に本音は書かなかった。しかし、本気でやってきたのは、最初からこれ一つ。この物質から何か出ることは絶対に間違いない。どこかで何か出てくるはずだ、と。ある意味では出るべくして出てきた成果だが、ただ、こういう形で結実するとは分からなかったということだ。

 よく例に挙げる話がある。月に行こうと狙いを定めて一生懸命走った。でも少しずれてしまう。パッと後ろを見たら、地球からは見えない月の裏側が見えた。物すごくよく考えて一生懸命走ると、走る前に見えなかったものが必ず見えて来る。見えないのは、一生懸命走っていないからだ、と。

 われわれが学生のころ何と言われていたか。日本は種をまけない国だと言われていた。トランジスタにしろ、新しいものは全部日本産ではない。種をよその国がまいて、それを刈り取ることばかり日本はやっていた、と。

 しかし、ここ10年ぐらいを見ると、世界を先導する研究というのは、日本発が実は多い。 サイエンスとかテクノロジーというのは、トップ10%の人間で決まる。平均値ではない。日本は種をまける国になった。これは間違いない。ところが問題は、論文の数もそうだが、産業面で弱くなってしまったことだ。端的に言えば、ノーベル賞を取れるようになったけど、科学技術で飯が食えなくなりつつあるというのが現状だろう。すべてが駄目になったわけではない。

 基本的に発展した国では科学や技術に対する関心というのはどんどん落ちる。これは多分、日本に特有の現象ではない。今度の地震で大変な被害が出たが、科学や技術の重要さというのは、こういう時にこそ本当の真価が出なければ駄目だ。「ネイチャー」や「サイエンス」に論文だけ書いていればよいわけはない。こういう困った時に、科学や技術が役に立ったということを明快に示さないと、みんな元気が出ない。

 私のモットーは、オール・オア・サムシング。オール・オア・ナッシングというのは研究をやったことのない人の言うことだ。頑張れば、必ず何かが出てくる。

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東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授 細野秀雄 氏
細野秀雄 氏
(ほその ひでお)

細野秀雄(ほその ひでお)氏のプロフィール
東京工業高等専門学校卒。1977年東京都立大学工学部卒、82年同学大学院博士課程修了(工学博士)、名古屋工業大学助手、88年米バンダービルト大学博士研究員、90年同大学助教授、93年東京工業大学工業材料研究所助教授、95年岡崎国立共同研究機構 分子科学研究所助教授、97年東京工業大学応用セラミックス研究所助教授、99年同教授、04年から同大学 フロンティア研究センター教授兼務。材料分野での独創的研究成果を次々に発表、2010年度からスタートした最先端研究開発支援プログラム(FIRST)でも30課題の一つに採択された「新超電導および関連機能物質の探索と産業用超電導線材の応用」の中心研究者を務める。

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