コラム - 科学のおすすめ本 -

光る原子、波うつ電子

推薦者:サイエンスポータル編集

掲載日:2008年1月29日

光る原子、波うつ電子
 ISBN: ISBN978-4-621-07943-0
 定 価: 本体1,800円+税
 著 者: 伏見康治 氏
 編集協力: 小沼通二 氏
 発 行: 丸善

1941年12月から1944年5月まで雑誌「図解科学」に断続的に連載された伏見康治氏の原子核物理の解説記事が、60数年ぶりによみがえった。伏見氏が数え年99歳になったのを記念して昨年6月に開かれた「伏見康治先生の白寿を祝う会」がきっかけで、単行本化が実現した。

伏見氏自身による「はしがき」「あとがき」や小沼通二氏による「本書について」などに刊行までの経緯が紹介されている。散逸していた「図解科学」誌を大学などの図書館から神田の古本屋街まで探し歩いた苦労話、さらにはえん罪事件として有名な横浜事件のあおりで発行元の中央公論社が、1944年7月に自発的廃業に追い込まれたという背景も、興味深い。

しかし、それより何より、古さを感じさせない伏見氏の解説、とくに記述の巧みさに舌を巻く読者が多いのではないだろうか。

本のタイトルにもなっている「光る原子」「波うつ電子」をはじめ、「飛び交う分子」「震えるエーテル」「光のつぶて」など、各回のタイトルだけを見ても当時30歳を出たばかりで大阪帝国大学理学部教授になっていた伏見氏のやわらかい言語感覚を伺わせて十分と言える。

「科学解説として珍しい余韻を湛えた点など、内容とともに近来の傑作と信ずる」。当時、「図解科学」編集後記で担当の編集長が激賞している「光のつぶて」(連載7回目)は、大学生と高校生の兄弟を初めて登場させ、その問答から光や原子の不可思議で複雑な性質、振る舞いを解き明かす工夫が凝らされている。「黒体という言葉をどこかで習ったはずだぜ。よく吸収するものはよく輻射する。よく稼ぐ男は金離れもよい。とる一方の人ばかりだったら、世の中の財が一か所に集まって暮らしが不愉快になることだろう」…。いずれも内容は高度だが、伏見氏独特の諧謔センスが随所に織り込まれておりあきさせない。

連載は、「図解科学」の監修者が仁科芳雄博士で、博士に呼び出され、執筆を「命令」されて始めたという経緯も面白い。当時、日本を代表するような学者が科学リテラシ一向上に熱心に取り組んでいたことに驚く読者も多いのではないだろうか。

前述したように発行元の中央公論は内閣情報局の圧力で自発的廃業に追い込まれ、「図解科学」は1944年8月号から朝日新聞社の手に渡った(伏見氏の連載も、中央公論の廃業とともに終わる)。廃業前にも「図解科学」は情報局から「戦意を高揚する軍事科学専門になるように」という警告を受けていたが、「最後まで基礎科学で押し通した」という中央公論「図解科学」編集長の話が、伏見氏の「はしがき」に紹介されている。

ページトップへ