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コラム - オピニオン -

地球・人類・社会のための工学を-世界工学会議に向けて
第2回「エネルギーから地球環境、災害と安全問題への貢献」

世界工学会議で会長を務める日本工学会会長 佐藤順一 氏

掲載日:2015年11月26日

エネルギー問題

佐藤順一 氏
佐藤順一 氏

世界のエネルギー消費量は、世界全体の経済成長とともに年平均で2.6%の割合で増加し続けている。この割合でエネルギー消費が伸び続けるとすると、2030年には、現在の1.4倍のエネルギー消費となる。このエネルギーの消費の増加は、既に発展した国では少なく、発展途上国で大きくなっている。これは、発展した国では、経済成長の割合が小さく、またエネルギー消費においては、省エネルギー機器が行き渡り始めていることによる。また、発展途上国および発展途上国から発展国に移行途中の国では、経済成長の割合が高いだけでなく、人々の生活向上に資するエネルギー需要が大きいため、エネルギー消費の増加割合が大きい。

これらのエネルギーは石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料エネルギー、ウランによる原子力エネルギー、水力・風力・太陽光などの自然エネルギー、またバイオマスで供給されている。現在、これらのエネルギー源のうち約80%を化石燃料が占めている。この化石燃料の可採年数は、現在の消費ペースが続くとすると、石炭は約120年、石油は約40年、天然ガスは約60年と見込まれている。今後、新たな化石燃料資源が開発される可能性もあるが、いずれにせよ、近未来的に限りある資源である。ウランを燃料とする原子力についても、ウランの可採年数は、約100年。現在の技術水準および経済状況を考慮すると、現時点で約10%しか占めていない自然エネルギーおよびバイオマスエネルギーが、今後の世界のエネルギー需要のほとんどを賄うことができるようにするためには、多くの努力が必要である。

一方、エネルギー消費をエネルギーの有効利用の観点からみると、先進国では化石燃料からの発電効率、自動車などの交通部門のエネルギー効率が向上している。また各種エネルギーを利用する側の省エネルギー技術および省エネルギーに対する理解も進みつつある。発展途上国では、設備・機器に対する経済的な問題もあり、高効率エネルギー機器および省エネルギー機器の利用促進が遅れている。

工学は、このような現状を考えると、エネルギー機器や省エネルギー機器の一層の高度化ばかりでなく、それぞれの国の経済発展状況に応じたエネルギー機器や省エネルギー機器の開発に努めなければならない。特に、大きなエネルギー消費部分である民生用については、工学はそのエネルギー効率の倍増すなわちエネルギー利用量の半減に対して大いに貢献しなければならない。また、重要なエネルギー源である原子力利用についても、その安全性を高めることに全力を注ぐとともに、社会に受け入れられる努力をしていかなければならない。さらに工学は、自然エネルギーやバイオマスエネルギーに対しても、普及促進を図るため、一層の貢献をしていかなければならない。

地球温暖化・環境問題

地球の温暖化は徐々に進行しており、台風やハリケーンの大型化、大雨や干ばつの多発、竜巻や突風が多発してきている。これは温暖化により、低気圧が発達しやすくなっており、気候が「乱暴」になってきているためである。この地球温暖化に影響を及ぼす温室効果ガス(GHG)排出量の約3分の2は、化石燃料エネルギー使用によるCO2排出によるものである。この化石燃料エネルギーは全世界のエネルギー利用の約80%を占めている。2015年春には、人類史上初めて大気中のCO2濃度が400ppmを超え、危険値とされる450ppm に近づきつつある。しかし、エネルギーは、経済の発展や人々の生活の向上に極めて重要であるため、今後も需要の増大が見込まれる。工学は、CO2を排出する化石燃料を用いたエネルギー機器の効率を高めるばかりでなく、省エネルギー技術、エネルギー高度利用技術を発展させていかなければならない。さらに、CO2を排出しない、原子力機器の発展、自然エネルギーおよびバイオマス機器のさらなる発展と普及促進に貢献しなければならない。

環境問題は、我々人類が持続的に安全を保ちながら生活していく上で極めて重要である。環境問題の一つは、地球環境、自然環境の破壊と保全である。人類が豊かに生活していくための経済活動や生活活動は古代から何らかの自然環境の破壊を伴ってきた。燃料や木材資源を得るための樹木の伐採や農業開発・畜産開発による自然環境や生態系への影響が古来問題になっている。しかし、世界の多くの人々が飢餓に苦しむことなく経済的に豊かに暮らすためには、ある程度の開発が必要である。この開発と自然環境の調和を図るため、工学の持てる力を発揮していくべきである。工学を駆使することによって、人々の豊かな暮らしと自然環境の保全を調和させることができると思われる。

工場や自動車等からの排気ガス、排水、騒音なども重要な環境問題である。大気汚染では、硫黄酸化物、窒素酸化物、微粒子状物質など多くの人工物質が大気環境を汚染し、人々の健康に大きな影響を及ぼしている。工学はこれらの有害物質排出の抑制に対して大いに活躍しなければならない。また、工場や各種施設などからの有害物質を含む排水も大きな問題で、いまだに発展途上国においては多くの健康被害が発生している。工学はこれらの有害物質発生の抑制について活動しなくてはならない。

工場などの作業場における労働環境の健全化も重要な問題である。これらには、騒音、振動、粉塵、有害物質、作業安全などがある。工学は、労働健康被害を防ぎ労働安全を確保するための取組についても活動しなくてはならない。水環境および衛生問題は、人類が安全に生活していくために極めて重要である。工学は古代からこの分野で活躍をしてきたが、世界では、いまだに多くの国の人々が飲料水に恵まれず、また排水設備の不備のために非衛生な環境で生活している。工学はこの分野でもさらに活躍していかなければならない。

資源枯渇問題

人類は、自然から得られる多くの物質、すなわち資源を加工し、それを利用することにより豊かで安全な生活を築いている。鉄や銅などの金属資源、プラスチックや合成繊維の原料となる石油資源や石炭資源、人類の生存に必要な水資源等を我々は利用して生活している。しかし、これらの資源は有限であり、現在の状況で採掘し続けると、100年程度しかこれらの資源を利用することができない。我々人類がこれから何世代にわたって生存していくためには、これらの貴重な資源を消費し尽くすのではなく、資源の有効活用、金属類やプラスチック類のリサイクル利用を推し進め、年間の資源の消費量を低いレベルにしなくてはならない。工学の英知を集めて、資源の有効活用およびリサイクル利用について研究開発を進めなくてはならない。

自然災害と安全

人類はこれまで多くの自然災害にさらされてきている。工学は、地震、津波、大雨、干ばつ、台風、ハリケーン、竜巻、強風、大雪、さらにこれらの自然現象が引き起こす洪水や土砂崩れ、建物の倒壊などに対して、有史以来多くの努力を傾けてきた。これまでの努力により、人類は比較的、自然災害に対して安全に対応できるようになってきている。しかし、自然の力・エネルギーは、人類が創り出すことができるものに比べて、桁違いに大きく、いまだに毎年、自然災害による被害が多くの国で起きている。特に近年は、地球温暖化の影響によると思われる自然エネルギーの増大により、台風の巨大化、風雨も著しく強くなっている。さらに、地球の多くの地域で火山活動の活発化や大地震が頻発し、これらに対する対応も重要になっている。工学は、これまで以上に創意工夫をこらし、自然災害に対する人々の安全について活動して行かなくてはならない。

工学教育および女子教育問題

科学・技術・工学教育は、それぞれの国・地域において、工学の成果を人々の生活に役立て、安全で豊かな暮らしを構築するために極めて重要である。工業化が進んだ先進国では、工学教育の歴史は約150年を超え、それらの教育を受けた人々がそれぞれの社会で工業活動や経済活動に参加し活躍している。一方、発展途上国、これから発展途上国になろうとしている国・地域では、工学教育のシステムが不十分で、その国・地域が必要とする工学を学んだ者を輩出できていない。たとえば、インフラの整備や、農業改革、工業化に工学教育を受けた者が必要であるが、工学教育制度や諸設備が十分でないため、必要な数の工学人材を養成できていない国ならびに地域が存在する。これが発展途上国やこれから発展途上国になろうとする国々の経済的成長を妨げている。先進国の工学者はこれらの国・地域の工学教育の発展を助けていかなくてはならない。 世界の人口の約半分は女性である。女性の工学教育は、工学系人材の一層の充実に極めて重要であるばかりでなく、社会の工学的素養の形成に大きな影響を及ぼす。世界の工学者は、女性工学者の育成および社会の工学的素養の涵養にもっと力を注がなくてはならない。

3.京都宣言で12の提言を発信へ

以上考えてきたように地球上には様々な問題があり、人々が安全で豊かな生活を営むためには、工学がそのイノベーション力をもってそれらの問題に対して積極的に対応して行かなくてはならない。間もなく開かれる第5回世界工学会議では、現状の工学の能力、将来の工学とイノベーション、将来の工学のあるべき姿、工学と社会との関係について議論を行い、「京都宣言」として日本、京都から提言を発信したい。素案では、地球温暖化の問題から世界の人口、貧困の問題から人材教育、工学の使命・役割など12の提言を予定している。

(完)

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佐藤順一 氏

佐藤順一(さとう じゅんいち)氏プロフィール
1948年生まれ。1976年東京大学大学院航空学専門課程博士課程修了後、石川島播磨重工業〔現 IHI〕に入社し技術研究所研究員。2006年同社取締役常務執行役員技術開発本部長、2008年IHI検査計測代表取締役社長、2012年IHI顧問。ブレーメン大学(ドイツ)、清華大学(中国)、東北大学で客員教授を務める。日本燃焼学会会長、日本機械学会会長などを歴任。現在は日本工学会会長。

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