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「次世代燃料電池産学連携研究センター開設 ? 基礎から実用化までワンストップの課題解決狙い」(佐々木一成 氏 / 九州大学 主幹教授・次世代燃料電池産学連携研究センター長)

2012.01.10

佐々木一成 氏 / 九州大学 主幹教授・次世代燃料電池産学連携研究センター長

九州大学 主幹教授・次世代燃料電池産学連携研究センター長 佐々木一成 氏
佐々木一成 氏

 昨今のエネルギー事情や地球温暖化対策が大きな国際的課題になって以来、燃料電池の実用化への期待は急速に高まっています。燃料電池は、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変えるため、化石燃料を燃やして発電するシステムに比べエネルギー変換効率が高いことが最大の特長です。最も基本的な仕組みは、水素と酸素から水ができる反応を利用するもので、騒音や振動もなく、二酸化炭素(CO2)をはじめ環境に悪影響を与える排出物も少ないといったさまざまな長所も合わせ持っています。そのため、電気と共に出る熱も利用する家庭用のコジェネレーション発電機器から、高効率火力発電システム、自動車の動力源、携帯機器用の電源など、幅広い用途が期待されているところです。

 しかし、本格的な実用化には、耐久性の向上や信頼性の確保、新材料開発によるさらなる高性能化など、技術課題も数多く存在しています。このような課題を解決し、多様な分野における燃料電池の利用を進めるためには、あらゆる分野から横断的に支援できる研究体制、基礎研究から実用化までをワンストップでサポートできる研究開発体制の構築がきわめて重要といえます。

 九州大学は、1月1日、『次世代燃料電池産学連携研究センター(Next-Generation Fuel Cell Research Center 略称NEXT-FC)』を設立しました。これは、昨年6月、経済産業省イノベーション拠点立地支援事業(「技術の橋渡し拠点」整備事業)に提案した「次世代型燃料電池産学連携研究施設」が採択されたことで実現したものです。

 本センターでは、学内の燃料電池分野関連の研究施設(水素エネルギー国際研究センター、未来化学創造センター、稲盛フロンティア研究センター、工学研究院、カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所など)で生み出された研究成果を活用し、実用に狙いを定めた研究開発活動を企業と連携し進めていきます。とりわけ、カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所との連携では、世界トップレベルの研究者ネットワークを活かし国際連携による世界最先端研究が可能です。また、企業との個別共同研究にあたっては、九州大学知的財産本部と連携し徹底した管理により、秘密保持契約の締結や企業秘密管理などにも安心できるサポート体制を確保しています。

 未来の担い手である次世代燃料電池分野の人材を育てる活動も積極的に支援します。産業界では、燃料電池関連技術の実用化を図るために、幅広い視野を持った技術者の育成が強く求められており、こうした要望を踏まえ、若手研究者・院生などを対象とした技術講習会や産学連携技術交流会の開催など、次世代燃料電池分野の人材育成支援を行っていきます。

 現在、10月末竣工予定で、九州大学伊都キャンパス・イーストゾーンに本センターの拠点となる研究施設を建設中です。完成後は、世界最先端の燃料電池評価解析システムをそろえ、電池内部の見える化や各種技術課題の解決、研究開発の加速を可能にし、企業の電池セルの機密管理やガスを用いた実験研究の保安管理を十分に行える施設となります。

 このように、本センターは大学の特長を活かした産学連携体制の下、燃料電池開発に携わるさまざまな技術課題解決にワンストップで対応できる研究センターです。さらに、九州にはセラミックス関連企業が集積しており、最も効率よく発電するセラミックスを用いた固体酸化物形の燃料電池について、その地域性を活かした緊密な産学連携による次世代型燃料電池の開発加速と本格実用化を推進するとともに、世界をリードする研究拠点を目指しています。

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本センターの主な活動内容

  1. 次世代型の燃料電池に関わる産学連携による最先端研究開発と実用化支援(企業電池セルの評価解析など)
  2. 次世代燃料電池分野の技術指導(“駆け込み寺”機能)
  3. 共通技術領域(非競争領域)での複数企業による共同研究プロジェクトの実施(公的研究プロジェクト実施など)
  4. 個別共同研究の実施(秘密保持契約の締結、企業秘密管理の徹底)
  5. 次世代技術に関する基礎研究・萌芽研究(水素エネルギー国際研究センター、未来化学創造センター、稲盛フロンティア研究センター、工学研究院等と連携した基盤研究支援)
  6. 国際連携による世界最先端研究(カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所等と連携した国際共同研究など)
  7. 次世代燃料電池分野の人材育成支援(実習を含む技術講習会、若手研究者・院生による産学連携技術交流会の開催など)
九州大学 主幹教授・次世代燃料電池産学連携研究センター長 佐々木一成 氏
佐々木一成 氏
(ささき かずなり)

佐々木一成(ささき かずなり)氏のプロフィール
京都府生まれ。聖光学院高校卒。1987年東京工業大学工学部無機材料工学科卒、92年東京工業大学大学院理工学研究科原子核工学専攻修士課程修了、1993年スイス連邦工科大学チューリッヒ校大学院材料科学専攻博士課程修了、博士号取得。スイス連邦工科大学チューリッヒ校助手、博士研究員などを経て99年九州大学大学院総合理工学研究科助教授。2005年同工学研究院教授、06年九州大学水素利用技術研究センター長、11年九州大学主幹教授に。現在、九州大学水素エネルギー国際研究センター長、カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所副所長も。主に固体酸化物形および固体高分子形燃料電池の材料・プロセス研究に従事し、九州大学「水素プロジェクト」を先導している。

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