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コラム - オピニオン -

「産学連携もコミュニケーションから」

中武 貞文 氏(鹿児島大学 産学官連携推進機構 准教授)

掲載日:2011年9月1日

私の仕事の日常

私の主たる仕事は産学官連携のコーディネート業務です。

「産学官連携」という言葉が世の中に浸透してきたようです。私などは「へえー、山に登られるんですね(おそらく「山岳」と誤解)。」とか、「命相手の昼も夜もないお仕事ですね(おそらく「産科」と誤解)」と声をかけられることが数多くありましたので、この言葉の定着には、ほっとしているところです。

しかしながら、まだまだ戸惑うことが多くあります。

産学連携の実務活動を行っていることを伝えたとしても、初めて会う方からあらためて「ご専門は?」とか「どちらの『学部』にご所属ですか?」という問いをされることです。この質問をされた方には、大学に在籍する私に何らかの専門性や「○○学部所属」というこれまでに「見聞きしている大学研究者のイメージ」を投影したいのだと思います。

一般的には、大学にいる研究者という立場は、何らかの専門を持ち、自らの意思に沿って研究活動を行い、それを教育にフィードバックさせるというイメージとして強いのではないかと思います。私を含む産学官連携の実務活動を行っている人間の多くは、大学の外部の機関(企業や行政の方、時には市民の方)からの問い合わせに対応し、研究者を紹介したり、研究者の研究動向をつかむためのヒアリング活動を日夜実践しているところです。

この他には、知的財産の管理活用や人材育成を起点とする活動も展開されています。私はそれらを「産学連携の実務」と呼ぶことにしています。研究者が研究者自身の自由意思を行動の起点としているのに対し、これら実務活動は大学という組織に新たに位置づけられた社会貢献という使命(ミッション)を背景・起点としています。当然、こういった活動を自らの研究素材や教育素材の獲得の場と位置づけている方もおられますが、私が知る限りあまり多いとは言えないと思います。この実務家の最も強い動機付けは、個々の事業の成功とそれを通じた組織の発展や地域への貢献であって、研究にはあまり興味がないというのがある面、現実だと思います。私の知り合いは、「論文? それよりも、研究者の成果を活かした次の事業をどう立ち上げるかを考えたい。」。今、そういった考え方を持つ人材が大学の中や周辺の組織に存在しています。


マッチング活動

さて、これらの実務活動の中から、「マッチング活動」についてお話ししたいと思います。皆さんも「ニーズとシーズとのマッチング」というフレーズは耳にされた方も多いのではないでしょうか。マッチングという行為を仲介する側から捉えると、「商品・サービス開発を行いたいけど何らかの課題を抱えている企業とその解決策を有する研究者との連携機会の提供」となるかと思います。このマッチング、重要な点として、集団お見合い的な場は除き、双方の情報を仲介者が把握し、さらに、連携を行うことによってもたらされるであろう効果を想像し、気づきを与えるということが挙げられるでしょう。こういったマッチングは、窓口への電話から活動が開始される場合もありますし、展示会・研究シーズ発表会などで直接交流から開始される場合もあります。その交流の内容を見ていくと、 1)研究シーズの解説 2)産業ニーズの披露 3)連携の可能性検討-といった段階を経ているようです。

いかがでしょう。どこかで似たような話を聞いたことがありませんか? 話者が自らの研究成果を披露し、聴取者からの問いに答えながらテーマへの理解を深めて行く…。「サイエンスカフェ」に代表される科学技術コミュニケーションに似ていると思いませんか?


産学連携と科学技術コミュニケーション

産学連携活動と科学技術コミュニケーションについては、産学連携側から、そして科学技術コミュニケーションに関係する側からいくつか論考が示されています。詳しくはそれら論考に委ねますが、私の産学連携実務で体得した理解として、専門家と非専門家との知の交流の場という大きな枠(フレーム)があり、その中でも産業に関係する一連のコミュニケーション活動として「産学連携のコーディネート」があると捉えています。さらにその先を細かく見ていくと、「産学連携のコーディネート」には科学技術コミュニケーションでは、あまり触れられることのない法務や知財といった特殊なマネジメント要素が内包されていると考えています。このように科学技術コミュニケーションを捉え、意識して産学連携実務を見つめ直してみると新しい視点が見えてきました。


「テーマ獲得の前段階」~交流の場造り

産学連携の活動では「研究シーズの発表会」といったPRを行います。研究成果を多くの企業に先ず「見てもらう」ことを目的としています。セミナー形式もあれば、ポスター形式もあります。この時の情報提供の特徴として、事業化を意識した研究成果ということを伝えるために、原理・現象よりも「想定される用途(応用)」が強調される傾向にあります。これまではこういったPRの方法に何ら違和感を持つことはなかったのですが、科学技術コミュニケーションを意識するようになってからは、情報の伝え方に配慮するようになりました。

全ての情報を織り込むことは実際のところ難しいのですが、「想定される用途(応用)」だけでなく、「本質的な理解」を促す工夫を行うよう心がけるになりました。このような工夫によって、研究者を驚かす提案・質問が寄せられるようになり、研究者の大きな刺激となってきています。

(事例)
・食品分野で活用が想定された技術が、企業側の提案によって全く別の技術領域で使われるようになるという展開に発展

このように、本質的な問いを研究者と企業とで共有できれば、イノベーティブな新たなテーマを創出の可能です。こういったお互いが知の理解を通じて研さんしあい、潜在的なテーマを浮かび上がらせる空間や仕組みがこれからより求められていると確信しています。


「多様な参画者」~情報発信スキルやネットワーク

加えて、こういったテーマの獲得には一対一の組み合わせでは足りず、複数の機関や多様な人材、そしてそれらが有する知的資産が関与することも必要です。「オープンイノベーション」と呼ばれる傾向にも通じますが、こういった多様な参画者を一堂に会するための情報発信スキルやネットワーク構築能力もまた求められています。鹿児島大学では産学官連携コーディネーターの情報共有会議を定期的に開催しています。こういった場から地域型の取り組みを進めていきたいと考えています。

テーマ性の確立した優れた研究成果を軸にしたプロジェクトの推進も重要ですが、小さいながらも何かをつかみかけている「ネタ」の数を増やし、テーマ性を確立させるという作業に科学技術コミュニケーションの手法は有効に機能すると考えています。


高レベル放射性廃棄物の地層処分

産学連携と科学技術コミュニケーションに関連して、もう一つ触れておきたいイシューがあります。私は2008度から2010年度まで「高レベル放射性廃棄物の地層処分地問題」についても、研究活動を行ってきました。といっても、私自身が新しい価値を生み出すというより、プロジェクトに関わる研究者の知を紡いでいくコーディネーターとしての役割が大きかったと思います。これらの成果についてはこれから成果報告書や学会発表で公開していくこととなります。

これまで大学の研究者の知を活用した「地域活性化」や「新商品開発」といった「前向きなプロジェクト」に参画することが多くありました。多くの方がそのプロジェクトの推進を好意的に見てくれるようなものです。その中で得た経験を、「高レベル放射性廃棄物の地層処分地問題」といった社会課題の解決に活かせないか、そして、そういった課題解決の起点に大学がなり得るのではないかと考えたからです。特別なことではなく、日常の問題として科学技術を扱いたいということを日々考えていたことも理由の一つです。


コミュニケーションやつながりを意識した活動へ、ネットワークポイントとしての大学

科学技術コミュニケーションにほんの少し関わった経験だけからも、多くの学びを得ました。そして、今、住み働いている鹿児島。大学と地域、研究者という専門家と市民の関係。日々の実務活動がそれぞれの関係性を感じ、捉え、考える好機であると確信しています。実務実践と考察を繰り返しながら、大学で産み出される知の成果を社会に最大限に活かす活動を進めて行きたいと考えています。これらの活動は産学連携部署だけでなく、地域の総合的な取り組みへと拡大させていくことが必要だと思います。これら一連の活動に多くの方が参画されることを願ってやみません。


地域での産学連携の取り組みを進めるためには情報発信が重要
2011年「産地専門商社等創出セミナー~
消費者と地域を繋げる九州の新しい試み~」の一コマ
ワークショップなどの手法も積極的に導入


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