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ICTによる社会の成長と環境保護への貢献(宇治則孝 氏 / 日本電信電話株式会社 代表取締役副社長)

2009.01.28

宇治則孝 氏 / 日本電信電話株式会社 代表取締役副社長

日本電信電話株式会社 代表取締役副社長 宇治則孝 氏
宇治則孝 氏

 ICTは情報通信技術(Information & Communication Technology)の略語であるが、近年、日本は政府のe-japan戦略をはじめとするICT戦略とICT関連企業の活発な事業展開が功を奏し、ブロードバンド環境について世界でトップクラスになったと言われている。総務省の「日本のICTインフラに関する国際比較評価レポート」でも、利用料金や通信速度などの評価指標で世界最先端レベルの水準を保っている。

 しかしながら、これらのICT基盤を活用したアプリケーションやサービスは必ずしも充分とはいえず、電子政府やソーシャルサービス、中小企業などでの情報化は遅れているという現状がある。ICTの技術進歩は目覚しく、ICTを武器として上手く活用することによって、企業経営の効率化や新事業の展開、さらには少子高齢化や環境問題などのさまざまな社会的課題を解決し、社会の成長を促進するという可能性が大いにあると期待できる。

 一例をあげれば、ソフトウェアをパッケージではなくネットワーク経由のサービスとして提供するSaaS(Software as a service)はビジネススタイルの変革につながる。SaaSを活用すると、必要なソフトウェアを必要なときにネットワークの先にあるシステムに接続して利用することができるようになり、特にSOHOや中小企業などコストに厳しく専門家が社内に少ない場合には効果的である。このように、情報システムは「持つ」から「使う」の時代になり、利用者は本来やりたかったことに専念することができ、ビジネスの成長、社会の活性化が期待できる。

 今、NTTグループでは、これからの時代のネットワークとして、光ファイバーとNGN(Next Generation Network:次世代ネットワーク)やモバイルのブロードバンド化を進めている。特にNGNはセキュリティや品質の面で特徴を持つ新しい情報通信基盤であり、これを活用した新しいサービスとして、先に述べたSaaSをはじめ、映像コミュニケーションサービス(テレビ会議)、ディジタルサイネージ(掲示板・屋外広告)、IPTV(ディジタルテレビなどの映像サービス)、防犯・防災などを含むホームICTサービス、教育・医療・ヘルスケアや、PCと携帯が連携したシームレスなサービスなどがあり、ブロードバンドの特徴を活かしたさまざまなサービスの展開が期待できる。そのためには、ネットワークとアプリケーションが両輪となって、新たな価値を創造すべく検討を推進していくことが必要と考える。

 ところで、われわれが直面している地球温暖化などの深刻な地球環境破壊は、これまでに築き上げてきた社会システムに起因していることを認識する必要がある。ICTの観点からも、通信トラヒックが増大して情報を処理するサーバ類が増加すると、電力消費がかさみCO2の排出量が増加する傾向がある。ただ、その一方で、ICTはCO2の排出削減効果を併せ持っており、例えば、電子商取引や遠隔会議・在宅勤務などを含むテレワーク、企業システムのネットワーク化などによりエネルギーコストが大幅に減るといわれている。ICT業界自体の排出量に比較してICTによる社会全体での削減効果のほうが多いという試算もあり、社会全体でICTをもっと活用することにより、省エネルギーをはじめとする地球温暖化防止にも寄与できる可能性がある。また、環境問題がグローバル化、複雑化する中で、インターネットなどを通じて、環境関連の情報共有、意見交換のためのネットワークが形成されていくことも有意義なものである。

 ICTは、このように多くの可能性を持った技術であり、その利活用を検討することにより「ICTによる社会の成長」と「ICTによる環境保護」が実現できると考えている。

 百年に1度といわれる世界的な金融危機・経済危機の環境のもとで、さまざまなR&Dがその重要性を増しているが、ICTの展開により、社会のさらなる発展や危機の突破に貢献できる可能性がある。産官学にわたる多様なコラボレーションにより、新たなイノベーションを起こせるよう知恵を出していくとともに、グローバルの目線を持ちつつ課題にチャレンジし、ブロードバンド・ユビキタス社会の発展に向けて、スピード感を持って取り組んでいくことが日本として極めて重要な方向であろう。

日本電信電話株式会社 代表取締役副社長 宇治則孝 氏
宇治則孝 氏
(うじ のりたか)

宇治則孝(うじ のりたか) 氏のプロフィール
1973年京都大学工学部修士課程修了、日本電信電話公社入社、88年エヌ・ティ・ティ・データ通信株式会社(現・株式会社エヌ・ティ・ティ・データ)産業システム事業部担当部長、99年株式会社エヌ・ティ・ティ・データ取締役新世代情報サービス事業本部長。同取締役経営企画部長、取締役産業システム事業本部長、取締役法人ビジネス事業本部長を経て、2003年常務取締役、法人システム事業本部長、法人ビジネス事業本部長兼務、05年代表取締役常務執行役員、07年から現職。著書に『進化する企業のしくみ』(共著、PHPビジネス新書)。

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