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円滑なコミュニケーションが本質-セキュリティ関連技術の最前線(吉岡康明 氏 / 大日本印刷情報コミュニケーション研究開発センターセキュリティ研究所長)

2009.01.27

吉岡康明 氏 / 大日本印刷情報コミュニケーション研究開発センターセキュリティ研究所長

大日本印刷情報コミュニケーション研究開発センターセキュリティ研究所長 吉岡康明 氏
吉岡康明 氏

 企業の情報管理の重要性は、企業そのものの存続にも影響するほど高まってきています。また、情報偽装によって「食の安全」が脅かされていることに生活者は大きな不安を抱いています。ネットワーク技術やITの発展によって、情報流通の仕組みが大きく変化し、多くの情報がどこでも素早く手に入る時代になり、ワークスタイルやライフスタイルが変わっていく中で、便利になるとともに新たな課題も発生していますが、セキュリティ技術は、このような生活基盤を支える技術としてますますその重要性を増して来ています。

 セキュリティ技術の原点は、情報を正しく伝えることといってもよいと思いますが、人類発展の最大要因のひとつである言葉と文字を使って、情報を効率的に伝達、記録することを実現した技術が印刷技術です。

 セキュリティと印刷の関係は、例えば、正しいことを証明するために、様々な印刷、加工技術を用いて、紙幣、株券、商品券などの偽造防止対策が施されてきました。目で見えるセキュリティとして、カードなどにも広く採用されているホログラムもその1つです。

 また、バーコードや磁気記録などの自動認識技術を用いて読み取るデジタル情報が印刷物に付与されるようになると情報流通の仕組みは大きく変わり、さらにチップが搭載され、RFIDやICカードが実用化されると、情報伝達効率と情報処理能力が飛躍的に向上し、情報を正しく伝える必要のある多くの場面で使われるようになりました。

 ワークスタイルの変化ということを考えて見ますと、PC、携帯電話、電子メールが不可欠となり、基幹業務システムもネットワーク化され業務効率向上に寄与する一方で、情報漏えい対策としてこれらの機器やシステムへのアクセスを制限する仕組みが導入されています。アクセスするためにパスワードやICカード社員証が必要であったり、個人を特定するために生体認証を組み合わせたりしています。オフィスへの入退出アクセスも同様です。

 また、個人情報保護法施行に対応し、お客様から預かった個人情報や従業員情報を守るために企業内の仕組みも導入されています。今後は、テレワークといった社外で働くスタイルも普及していくことが予想されます。このように、新たなワークスタイル実現による企業活動の効率化と企業が直面している情報管理リスクの両立には今後も新たな技術/システムが必要とされています。階層化という概念も重要でしょう。

 ライフスタイルの変化を考えて見ますと、インターネット、携帯電話の普及によって、非常に多くの情報がいつでもどこでも入手でき、様々なサービスが享受できるようになりました。インターネットショッピング/オークションの仕組みは、流通網の進化と相まって、自宅に居ながらにして買い物(決済)と短時間での配送を可能としています。また、Felica技術(注)などを用いたICカードや携帯電話さえあれば電車、バス、飛行機に乗れますし、買い物もできます。これらは、貨幣制度の進化といってもよいと思いますし、それだけに貨幣価値や取引の情報が正しく伝わり使われることが非常に重要となります。一方で情報過多の問題や若年層の保護、高齢者への対応など新たな課題も生まれてきています。

 このように、われわれの生活環境はこれからも変化し続けると思いますが、これらの変化に対応し社会が正しく機能するためには、セキュリティ技術の原点である情報を正しく伝え正しく使われる仕組みの構築が不可欠であり、さらに誰もが正しく使えることが重要です。暗号化技術、認証技術などの基盤技術の進化発展に加えて、NGN、クラウドコンピューティングやシンクライアントなどの新たな情報流通、情報蓄積、情報処理の仕組みの進化発展が必要です。また、誰もが正しく使えるという観点では、ユーザーとのインタフェイスとして、PC、携帯電話、カード、各種メモリなどのデバイスの進化や情報を目で見えるようにするための判読しやすい電子ペーパーなどの新たなディスプレイ技術も不可欠と思います。

 社会基盤となる仕組みの変化により、個人情報やプライバシーの取り扱い方が変化し、新たに出現した犯罪防止のためにもセキュリティ技術が活用されていますが、セキュリティの本質は、情報を正しく伝え、正しく使われるということすなわち円滑なコミュニケーションを実現することだと思います。それが生活環境を守り、豊かな生活実現につながります。情報を伝えるための手段として印刷技術に永く携ってきましたが、より多くの多様化した情報を適切に伝え、新たな円滑なコミュニケーションを実現するために、新たなセキュリティ技術と製品の研究開発を進めていきたいと思っています。

編集者 注) FeliCaはソニー株式会社の登録商標

大日本印刷情報コミュニケーション研究開発センターセキュリティ研究所長 吉岡康明 氏
吉岡康明 氏
(よしおか やすあき)

吉岡康明(よしおか やすあき) 氏のプロフィール
1959年茨城県生まれ、82年東京工業大学工学部卒、大日本印刷株式会社ビジネスフォーム研究所入社、93年ビジネスフォーム研究所第1研究室長、2000年CBS開発本部システム企画部長、05年情報コミュニケーション研究開発センター研究開発第5部長、07年から現職。セキュリティメディア、システムの研究開発に長年、従事。

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